2019-08-04

中嶋憲武✕西原天気の音楽千夜一夜 ザ・キンクス「ホリデー・ロマンス」

中嶋憲武✕西原天気の音楽千夜一夜
ザ・キンクス「ホリデー・ロマンス」


天気●休暇の旅先で恋に落ちるなんてことは、物語の中だけかもしれませんが、あさはかな夢も、人生には必要。…でしょ? というわけで、ザ・キンクス「ホリデー・ロマンス」です。


天気●出世作「ユー・リアリー・ガット・ミー」で知られる老舗ロックバンドですが、ストーリーのあるロックオペラ的なアルバムもいくつか残していて、そこではこういうバーレスク的な曲も演る。レイ・デイヴィスは皮肉屋でお茶目。演劇的な歌で、その味がうまく出るんですよね。

憲武●不思議なことに、このアルバム持ってるんです。

天気●めずらしいものをお持ちですね。よりによって、これ?

憲武●はい。特にヒット曲が入ってる訳でもないのに。タイトルには、こうあります。「ソープ・オペラ(石鹸歌劇)〜連続メロドラマ"虹いろの夢"」と。歌詞カードを見てますと、曲と曲の間にト書きが入ってます。凝ってる。

天気●邦盤はタイトルが凄いですね。虹色の夢? この曲、休暇に出かけ、ホテルでラヴィニアという女性に一目惚れ。ダンスに誘い、浜辺を歩き、気持ちが盛り上がって、いよいよキスをしようというとき、彼女は言うんです。「やめたほうがいいわ。夫がきょう来るので」。そして、この男の休暇が終わる。

憲武●ラヴィニアに出会ったときの詞が "the moment that Isaw her standing there"です。17歳だった訳でもなさそうですが。グッと来ますね。

天気●ビートルズね。she was just seventeen♪ この曲の入ったアルバム『ソープ・オペラ』(メロドラマって意味ですよね)は、どの曲にもストーリーがあって、なおかつ、それぞれがつながっている。「ホリデー・ロマンスの」の次の曲は、「You Make It All Worthwhile」。家に帰って、妻に向かって歌う歌。「どんなものも価値あるものにしてくれる。それが、きみ」みたいな意味でしょうか。


天気●随所に夫婦のセリフの掛け合いがあって、途中、険悪にもなる。「ミートパイがあるわ」「ミートパイ? 大嫌いだ」「え? なんですって?」うんぬんかんぬん。でも、気を取り直して、「夕食にしようか」「そうしましょ。食後に蒸しプリンはいかが?」「おお! すばらしい!」。

憲武●スターという人物が、妻(アンドレア)のご主人のノーマンに成り代わってるっていう設定ですね。随所に"when I get home"ってフレーズが出て来て、グッと来ますね。

天気●ホームドラマの一幕ですが、「ホリデー・ロマンス」で美女にうつつを抜かし、家に帰ったら帰ったで、妻に向かって「きみこそすべて」なわけですから、男って、身勝手でバカ。うれしくなってしまいます。


(最終回まで、あと894夜) 
(次回は中嶋憲武の推薦曲)

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