2019-10-13

10句作品 水の回遊記 青本柚紀


水の回遊記 青本柚紀

浮舟よ口に棗の緋を交はし
仮枕手を流れ出て色は葛
忌の薄い鐘をとほして木槿にゐ
くだる身のあなたを波になる菊が
秋蛍食べては砂の弧をうつし
藻に代へてとどまる鮎を藤の香
明け暮れの散らかる川を骨は葉に
萩は目に奥をひづめの澄みながら
わたくしを傾け壺に棲む獏は
いろは坂昏くてとどく雁の呼気
まばたきをうすももいろの鵙の木々
見えてゐる痣に芒がかかり笑む
満ちて野の花さいごの水の輪を鳥が
ここは月の間千の夜がどしや降りで来る
木犀をはなれて舟の野に覚める







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