2019-10-13

かわいい鳥類 青本瑞季

かわいい鳥類

青本瑞季



都民の日に上野動物園でペンギンを見た。秋になってもまだ暑い日が続いたからか、彼らはとてもだるそうで、腹ばいになって日陰で休み、腕をだらりと垂らしているやる気のなさがとてもよかった。ずんぐりむっくりな体躯、動きのつたなさ、どこをとってもペンギンは良い生き物だと思う。

ここ何年かでコウペンちゃんというキャラクターが少し流行ったり、全く言うことを聞かないペンギンショーの様子がSNSで拡散されたりと、ペンギンは確実にかわいい動物としての市民権を得ている。コウペンちゃんは最近出てきたキャラクターだけれど、タキシードサムやピングーといった古株の存在はペンギンのかわいさがずいぶんと前から知られていたというなによりの証拠だ。

タキシードサムは1978年から、ピングーは日本での放送は1992年からなので、ペットに出来ないぶん犬や猫ほど絶大な人気はなくても、かわいい動物としてのペンギンの表象はそれなりに息が長い。とはいえ元をたどればせいぜい戦後からなのだろうとなんとなく思っていた。

ところがペンギンのかわいさへの言及はどうやらもっと古いらしい。つい最近、1910年のの朝日新聞にペンギンについての連載を偶然見つけた。その連載ではペンギンの生態や特徴について紹介してあり、〈ペンギンの味は魚と鳥の合子みたいだといふ〉(1910年9月20日の朝刊)だとか、ペンギンは音楽が好きで船上で演奏される音楽におびき寄せられたペンギンを捕まえて食べた人の話だとか、今ではあまり聞けなさそうなペンギンを食べた話まである。ペンギンの風貌についての描写は、

ペンギンほど大納まりに納まつた奴は餘りあるまい、僕の見たのはアデリー種の一尺位之ものだが之が例の燕尾服白短褐ですまし返つて水際をうろついてゐる所はいやはや呑み込んだもので有つた、身の丈三尺もあるといふエムペロル種の納まり方が思いやられる(1910年9月21日)

と言った具合で、また挿絵の横に〈ペンギンは可愛い恰好の鳥である上に雪に埋もれたペンギン〉(1910年9月20日)と書かれているところからも、あの形は当時からかわいいものとして認識されていたようだ。とはいえ当時の感覚は今とは違って、探検隊の一員が餌付けして愛玩していたという記述の後に、ペンギンの用途として愛玩だけでなく、卵が貴重な食糧であり、オムレツやハムエッグ、玉子酒に用いられたというエピソードが続く。

ペンギンを食べることとペンギンをかわいいと思うことは決して両立しない訳ではない。それはわたしが鴨はペンギンの次にかわいい鳥類だと思いながら鴨肉を好んで食べることと同じことなので。食べ物として認識されなくなり、条約に守られる存在になったことはペンギンたちにとっては良いことなのだろうけれど、庇護対象でなくても今も昔もペンギンはかわいいことに変わりはない。

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