2019-10-20

【句集を読む】一枚の 吉永興子『子規球場』の一句 西原天気

【句集を読む】
一枚の
吉永興子子規球場』の一句

西原天気


俳句の短さ(音数の少なさ)についての言及をよく目にする。俳句はたしかに短いけれど、短すぎることはない。

春暁や和紙一枚の明るさに  吉永興子

言われていることは、夜明けの春障子。それだけ。内容的には17音も使わなくていい。

俳句は、なにかをコンパクトに表わすものでも、膨大なものを凝縮するわけでもない。数文字(数音)で済むものを17音近辺にまで押し広げる/薄く伸ばすこともしばしば。軽く明るく風通しの良い、もうひとつ別の調べ・響きが生み出される。

なお、「に」のあとに省略されたことは、作者に属するものではない。「に」で終えた作者は、そこで仕事を終え、以降、作品には関わらない。その潔さも、俳句の良いところ。

吉永興子句集『子規球場』(2019年9月/角川文化振興財団)より、掲句のほか、気ままに。

生きてゐることの朧やパジャマ着て  同

襤褸市や猫が寝てゐる蜜柑箱  同

薄氷や蹴る寸前の吾映す  同

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