【句集を読む】
巻貝の昼寝
長岡悦子『喝采の膝』の一句
西原天気
巻貝の水抜け易し昼寝覚 長岡悦子
巻貝の貝殻だろうか。中の水が外に抜けやすいのだろうか。いずれにせよ、水がどう抜けるか、抜けやすいか抜けがたいか、といったことに意識が向いたことはない。それなのに、この提示・この叙述に唐突さがないのは、「昼寝覚」の効果だと思った。
巻貝の水と昼寝が一句に同居すると、どうしても、この昼寝が、海を泳いだあとの、あの疲れたからだを休める昼寝、気だるい海遊びのあとの昼寝に思えてしまう。ついでにいえば、耳に入った水にも思いが到る(耳の構造と巻貝はイメージ的にそう遠くない)。
その意味では、前半が、昼寝にはっきりとした輪郭や肌理を与えていることになる。
12音があって、そこに季語がくっつく。その作法の是非はともなく、この句においては、季語「昼寝覚」が安易にくっつけられた感じがない。季語と季語以外がうまく、美しく照応している。
長岡悦子句集『喝采の膝』2019年9月/金雀枝舎
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