■2019角川俳句賞「落選展」■
4. 杉原祐之「むべなる」
(一次予選通過作品)
むべなる 杉原祐之
梅雨兆す汐入川の匂ひかな
黒々と欅並木の梅雨に入る
子ども部屋散らばるままに梅雨籠
怪しげな風を受けつつ蛍狩
洗濯のシーツを過る螢かな
掃き清められし廊下のいぼむしり
ビール売るハイビスカスの花をつけ
をちこちに鬼灯市の水溜り
天井に声の響けるビヤホール
ショールーム前に立てられ花氷
中隊の旗も振られて盆踊
坪庭の芝を整へ霊迎
西瓜食べながら子どもの宿題を
遠花火テレビ中継観ながらに
農協のバケツに稔る稲穂かな
野分去り鴉の羽根の散らばれる
大嵐過ぎたる後の松手入
カウベルの音の澄み渡り霧晴るる
もやしつ子ばかりのレース運動会
葬列に踏み倒さるる彼岸花
駐屯地貫く川に鮭遡る
野営地の鉄条網の霜光り
マンションの棟を超え来る朴落葉
縁側に座して落葉の濃き香り
冷蔵庫また捨ててある師走かな
地下街にまで木枯の音響く
箸先を湯豆腐逃げてゆくばかり
着膨れに挟まれながら通勤す
コンセント抜かれ聖樹の静もれる
来ぬ奴のことを肴に年忘
山内の雲水総出餅を搗く
家ぬちの札を剥して除夜詣
武蔵野の空広々と大旦
片目空く達磨の積まれどんど焼
アリーナの中を飛び跳ね寒雀
島ひとつ神社でありし野水仙
暁け切らぬ島水仙と潮の香と
パトカーの撒ける凍結防止剤
根こそぎに蓮を引抜き池普請
禿山もまたその一つ山笑ふ
卒園の子の滑り台幾たびも
手に載せて木五倍子の花の軽さかな
自転車を押し夜桜を仰ぎたる
粗大ごみ出して来りて花仰ぐ
寺町の目抜き通りのさつき咲く
ステーキを頬張りゐたる夏来たる
シャッターを上げて神輿の御渡御待つ
祭足袋ATMに忘れられ
路面電車待つより歩く薄暑かな
蛞蝓の長き腸透けにけり
○
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