2019-11-10

■2019角川俳句賞「落選展」■ 5. すずきみのる「四季抄 春」

2019角川俳句賞「落選展」
5.  すずきみのる「四季抄 春」





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四季抄 春  すずきみのる

風のさみどり鬱金桜の蘂の紅 
風に触れつつはくれんとなりおほす 
雪やなぎ三また四またと水流れ 
天啓のごとさへずりや一喬樹 
春風や天翔けるごと子を抱へ 
春たけてこし餡まるでローム層 
雉の仔のがさつく藪を凝らし視る 
猛禽旋回雉の子の育つ藪 
ペンギンの水槽越しに霾の街 
議事堂の壁面色に霞たつ 
桃の花かげり立つるは伊吹山 
人つながりて傾斜行く芝桜 
通園の子らつぎつぎと花の門 
舌先にシャボンの苦味しやぼんだま 
漣の浮桟橋や仏生会 
花曇ドクターヘリの降下して 
春たけて分厚く甘き堆肥の香 
残雪がつなぐ稜線国境 
春風の乗車完了岐阜羽島 
路面電車を遠く煙らせ春の雨 
春の星夜をこめて病む犬の声 
空気一枚隔て稜線遅桜 
春昼の病棟に鳴る白電話 
野外楽団たんぽぽの絮闖入す 
春はあけぼの山鳩のグルツポウ 
手押しポンプも畠の跡杉菜生ふ 
八重桜『源氏』読破をこころざし 
遠蛙きら星は天移りつつ 
最終のバス来たる見ゆ目借時 
荒草のなかぽつねんと葱坊主 
ファインダーに浮かぶ入り日と告天使 
青麦に添へひとことを送りけり 
千波万波金波銀波と春怒濤 
海浜に廃船いくつ春の鳶 
塊として烈風は燕撃つ 
草青みたり小流れも草色に 
風に落花に真向かひてゐたるかな 
飛花落下金網囲ふ猿舎かな 晩
春招来「むつくり」ビンと弾きては 
ゲネプロといふ春宵の二三刻 
刻満ちて主宰の席に春袷 
太陽と風の祭壇仔猫の死 
春や春黄泉の社に行き着きぬ 
一冊の児童書にある春の闇 
木の葉隠れにぬばたまの鴉の巣 
電線の影踏みゆけば春の果 
喪家指す黒き矢印暮の春 
飛燕の弧せんたく物の踊る日よ 
春疾風壁這ひあがる新聞紙 
紙雛や駄菓子のならぶ棚の端に

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