2019-12-15

空へゆく階段 №21 解題 対中いずみ

空へゆく階段 №21 解題

対中いずみ


竹中宏(「翔臨」主宰)は、2冊の句集をもつ。1984年3月に刊行された『饕餮』と、2003年5月に刊行された『アナモルフォーズ』である。

第一句集と第二句集のあいだに約20年の歳月が流れ、第二句集以後すでに16年の歳月が流れている。第三句集はずいぶんと待たれているがなかなか上木されない。何度か第三句集を出して下さいとお願いしたが、あるとき、「タイトルが決まらないんですよ」と言われた。「タイトルなんて! 「アナモルフォーズⅡ」でもいいじゃないですか」と言ったらものすごく嫌そうな顔をされた。それから数年を経て「タイトルが決まりました」と教えてくれた。しかし、その後4、5年は経っている。20年に1冊とでも決めているのだろうか。決して寡作なわけではないが句集上木へのこの抑制ぶりは、現代俳句ではひじょうに希有な例といえよう。

ここでは第二句集『アナモルフォーズ』の句と自跋の最後の一文を掲げておこう。

  頭韻をいましめ竝ぶ目刺しの目

  夢に化(な)る蝶を黄とおもひ何以(なぜ)とおもふ

  色と光のあはひ微(かす)かに入る陽炎
「アナモルフォーズ」を僭稱してゐるのだから、その構造をなぞっておくなら、この句集において、雑然たる風景のなかからにじみ出るのは、明晰な圖柄ではなく、もうひとつの混沌なのだといはなくてはならない。どれほど現實を微分してもその背後にはりつく、正體のとらへがたい、むしろ、正體がないといふのが適切な、このもうひとつの混沌の時空にわたる奥ゆきは、不安の源泉であるけれども、同時に、地上のまなざしのまへに、現實をのりこえるためのいざなひでもある。

≫田中裕明 俳句探訪 竹中宏「饕餮」

0 comments: