2019-12-15

【句集を読む】紐について 辻美奈子『天空の鏡』の一句 西原天気

【句集を読む】
紐について
辻美奈子天空の鏡』の一句

西原天気


季語とそれ以外の部分の関係については、膨大な説明と議論が存する模様。二物衝撃とか取り合わせとか十二音技法とか、まあ、あるわけですが、話を広げることはせず、例えば、実作に際しては、〈連想〉のような操作が作者のアタマの中で展開されることもないわけではないだろう。それが正当か適切か称揚されるかどうかは別にして。

蝌蚪生まれ行ったことなき紐育  辻美奈子

行ったことのない場所を詠む時点で、また、わざわざ漢字表記である時点で、言語遊戯(まったくもって悪い意味ではありません)と、読者は知らしめられるわけで、この創作的12音が作者に浮かんだのちは、季語を何にする? という話に、なにしろ俳句であるからには、なるわけです。

紐から蝌蚪へ。

あるいは連想の順序が逆、すなわち「蝌蚪の紐」という歳時記の一項目(一副題)から、ニューヨークへ。

ニューヨークとおたまじゃくしに、つながりはありません、言語的事象でのつながりを除いては。

紐がつないだ一生物と一都市というわけで、俳句を遊ぶ愉しさ、ことばを遊ぶ愉しさは、作者の、また読者の気持ちを軽くしてくれます。


辻美奈子句集『天空の鏡』2019年11月5日/コールサック社

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