2020-01-12

【空へゆく階段】№22 解題 対中いずみ

空へゆく階段 №22 解題

対中いずみ


「ゆう」2号には中原道夫氏が一文を寄せている。〈君もてる早蕨籠に降りそめし〉〈秋袷すでに蔓ものなども引き〉などを挙げた上で「何と脆弱なうつくしさよ。言葉の楼閣に昇りゆく恍惚とした気分が早くから私を捉えて離さなかった。ずっと歳下であるにも拘わらずこの老成振り、成熟感に嫉妬を覚えたものだ。波多野爽波をして『茫洋として人を誘うかと思えば、極めて繊細なところもあって読む物を魅了する』(『花間一壺』)と言わしめた田中裕明の作品の特長は、脆く毀れそうなまでのリリシズムである。虚子――爽波――裕明という師系を思うとき、更に更に磨き澄まされたものを感じる。それは裾窄まりという意ではなく、より純化の方向へ歩んでいる、先師の爽波より俗なものを取り去っているといういい方が相応しい」と裕明句の特長を述べている。

この号の裕明句は以下の通り。太字は『夜の客人』所収。

 冬ざれ

マクベスの魔女は三人龍の玉

思はざる道に出でけり年の暮

屏風一双勅使むかへし間にあれば

冬座敷海山とほくへだてけり

枯蔓の次の千年おもはずよ

木枯やいつも前かがみのサルトル

冬木立まつすぐにゆく力あれ

日当れば巖のごとき霜の宿

そのひとの亡けれど冬のあたたかに

冬ざれや人を悼みて文字を書く


田中裕明 ゆうの言葉

2 comments:

ハードエッジ さんのコメント...

>枯蔓の次の先年おもはずよ

??

wh さんのコメント...

ご指摘、ありがとうございます。

先年は千年の誤記です。お詫び申し上げますとともに訂正させていただきます。