【句集を読む】
図形と感情
柏柳明子『柔き棘』の一句
西原天気
垂直に雨くる学校のプール 柏柳明子
雨はだいたい垂直に降る。「くる」のも上空からだから、だいたいは垂直である。
つとに垂直ではあっても、そのときまさに、あるいはそのときあらためて垂直であるのは、水面という水平が配置されているから……ばかりではなく、プールの矩形、さらには学校の矩形(学校というのは矩形の多い場所だ)もきっと関連している。
構図は、以上のようにすっきりと乾いたものだが(雨なのに、って無駄口はさておき)、学校というものに備わるウェットな感情が、この句に加わる。ほとんどの人間にとって、学校は過去であり、それゆえなにがしかの懐旧を含み、それだから、そこには建築上の直線とはまったくべつの感情がまとわりつく。
スタイリッシュな作り(前半あえて当たり前を言うことも含め)と感傷がよくバランスされた句。
柏柳明子句集『柔き棘』2020年8月1日/紅書房
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