2020-09-06

【句集を読む】図形と感情 柏柳明子『柔き棘』の一句 西原天気

【句集を読む】
図形と感情
柏柳明子柔き棘』の一句

西原天気

垂直に雨くる学校のプール  柏柳明子

雨はだいたい垂直に降る。「くる」のも上空からだから、だいたいは垂直である。

つとに垂直ではあっても、そのときまさに、あるいはそのときあらためて垂直であるのは、水面という水平が配置されているから……ばかりではなく、プールの矩形、さらには学校の矩形(学校というのは矩形の多い場所だ)もきっと関連している。

構図は、以上のようにすっきりと乾いたものだが(雨なのに、って無駄口はさておき)、学校というものに備わるウェットな感情が、この句に加わる。ほとんどの人間にとって、学校は過去であり、それゆえなにがしかの懐旧を含み、それだから、そこには建築上の直線とはまったくべつの感情がまとわりつく。

スタイリッシュな作り(前半あえて当たり前を言うことも含め)と感傷がよくバランスされた句。

柏柳明子句集『柔き棘』2020年8月1日/紅書房

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