2020-10-25

〔今週号の表紙〕第705号 門司港 野木まりお

〔今週号の表紙〕
第705号 門司港

野木まりお



大学に入って東京で自炊生活を始めた時、一番びっくりしたのは「魚屋の魚がみな死んでいる」と言うことだった。大げさと思われるだろうが、背筋が凍る程ショックを受けた。

故郷門司の魚屋ではピンピン跳ねるものが魚で、鰯の目は輝き、鯖は包丁持ったおじさんが捕まえようとすると、土間に飛び降りそのまま海を目指して一直線(?)、鯛の鰓はヒクヒク動き、平目は新体操の選手の如く尻尾を頭近くまで反り返らせる運動を繰り返す。魚屋は賑やかな所だった。正直、私は一年くらい東京の魚が食べられなかった。

スーパーは既にあったけれども、あれは魚だろうか? 斯く言う門司も今や個人商店は次々姿を消し、パックに入った切り身の魚が主流となった。

然し見よ! 夕暮れには必ず釣り人が潮目を見るため防波堤に立っている。そして夜になるとここは釣り人激戦区と化す。潮の流れの速さではどこにも負けない関門海峡である。落ちたらあっという間に流され、人間の方が魚の餌食だ。ここで繰り広げられる魚と人間の攻防。私にはどこかそれは、魚と人間の大恋愛小説のように思える。



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