10. 空谷雨林 花園
四才のあなたに蝶がとまりしこと
紙燭さしてかたくりの咲く迷宮を
茣蓙もなくただ梅林をひろげたる
紅梅を見て前髪を切り揃ふ
春の波みな包帯にしたまへと
いえめんの菜の花そまりあの菜の花
聖堂の画像を削除して朧
土筆摘む少年の詩は誦し易し
桃の花陰口を聴き目を閉じる
他界してなほたんぽぽを摘みに来る
幽霊にバタパン分けし花蔭かな
春蘭のとなりに空きがあり坐る
花びらを二枚かさねて花園てふ
目をひらきせらぴむをよぶ蚕かな
烏羽を翳し青葉を拒みけり
黴の雨やさしい〇〇学の本
梅雨百年眠りつづける人もをり
星影に笹舟犇めくこと知らず
メンヘラのラに桜桃の種を吐き
泰山木こねことまちがへられ微笑
三時の睡蓮三時0一分の睡蓮
金魚ゆれて消えて猫ゆれて消えて
天界はある駒鳥は甦る
焼菓子を頬張つて泣く夏椿
仙人掌の中の仏弟子星を見る
鬱病の肩に蕣藍白紅
ほうづき火は火に灰は灰に
露草につまづきながら告解す
さふらんを目にあて前世なつかしき
羅摩船花野のりきりのりきり征く
石立たすロゼツト草も日向ぼこ
山羊にまみえて翁舞ひ候
神の留守人格まれに交代す
黄落を抜けて白杖折りたたむ
種入りの袋を奪ひ合ふ小春
団栗を一つ踏み割るお父さま
てのひらにみかんを隠すお母さま
「明日も」と書き北窓を閉ざしけり
うそついたことをみとめる初雪
こな雪ねえさまあれは何病の人
柚子馨る君は明るい正しい病
林檎切る祈祷歌らしきもの聞こゆ
冬薔薇に小太陽と名付けたる
百八ツ去りて竹林がらんどう
宝舟人魚千疋したがへて
竜の玉ひとつ瞳の中に入れ
寒牡丹みまもるわれも自閉症
あめゆじゆになりたしてのひらをひらいて
ねこの爪さやうならうすらひにのせ
いまここにゐないてふてふの大群
1 comments:
でたらめに作りて旨し桃の花 折戸洋
コメントを投稿