2020-11-07

12. 中田 剛 捨てる神(*)

 12.  中田 剛 捨てる神(*)

靄きれぎれに冬の田にやすらへる

山裾に雨脚さはるしぐれかな

庭草にきたる枯れいろ粛粛と

冷えきりし肌着に首をとほしけり

霙降るなかを漬物石さがす

蒟蒻の土佐煮いただく翁の忌

息白くいのちはひとつきりなると

元日は湯を沸かしをる音に覚め

初詣しげくゆさぶりあやすなり

配膳のをんな此度は初夢に

姫はじめいつたん部屋を明るくす

豆を撒く得体の知れぬウイルスで

酷くかつ厳かな寒赦されよ

虹のいろ空に吸はるる二月かな

湯の揺れと少しく違ふチューリップ

師と仰ぎたきほどの友梅の花

春浅く諾ひがたき死ありけり

蝌蚪生まれ水ぬるぬるとしてゐたる

うつ伏して蛙は泳ぎ止めてをり

アメリカザリガニ釣るに蛙の足もぎし

捨てる神また捨てる神冴え返る

素気なくされ恋の猫昂ぶりぬ

春のゆめまた女から噛みつかれ

うつむきてをれば忘ずる桜かな

つちふるやむかし都でありしとか

亀鳴くや老いてはじめて分かること

春の山蛇の屍うらがへし

御所の夜気春の鳴神わたりゆく

ふらふらと出できし猫のかぎろへる

動かぬはすなはち死なり春の鮒

紅もとめ笄もとむ朧夜は

燕来る日ざしに雨の横なぐり

ゆふぞらと夜ぞらのあひを燕飛ぶ

遠吠えのだんだん小声日永し

ぞんざいに粽ほどくやひだるくて

鯉幟尾のあたりだけ動かして

ぼたぼたと梅の実落つる音不吉

青梅を片手づかみに筵まで

夕空のはたして暮れぬ燕の子

額の花雨脚といふ白きもの

あはあはと花の香のたちさみだるる

どことなくそれらしくなき茅の輪あり

かたつむり高浜虚子の庭に湧く

青鷺の発つ影砂洲をふとつつむ

生ぬるき風吹いてくる蓮見かな

情薄きお方と言はれ滝を見る

おぢさんとおばさんだけで溝浚へ

百日紅には薄ぐもり似つかはし

肩ゆすりながら牛来る炎天を

芒原にてこんこんと諭されぬ


1 comments:

折戸洋 さんのコメント...

リア充と非リア充のクリスマス 折戸洋