【句集を読む】
二〇世紀の空と海
草野早苗『ぱららん』を読む
西原天気
空母ゐて記念切手のやうな夏 草野早苗
aircraft carrierに「航空母艦」の和訳を宛てた人にはなにかしらの詩があったのだと、「母」の一文字を見て憶測するのですが、甲板に降りてゆくパイロットは「母」のようなおもむきを、あの長大な艦船の姿に見てとったのだろうと、無用な想像をふくらませつつ、「空母」と略されると、元の語にあった機能が薄れ、母のイメージが増幅するような気がして、空の母なんて、ちょっとじわっと来ませんか。戦争という忌まわしい事柄がこの観戦の背景にあるにせよ。
空母が停泊していたのでしょう、その日。そのまま記念切手の絵柄になるような風景です。船をモチーフにした切手はたくさんあります(≫画像検索)。ただ、まあ、平和な船が多いですが。
ともかく「空母ゐて記念切手のやうな景色」だったわけです。
掲句はご覧のとおり、景色ではなく《夏》。意味のよく分かる散文が、最後の一文字によって俳句になった。シンプルでいて鮮やかな展開です。
夏という包み込みによって、空母が備える「空」と「海」ののびやかなイメージが夏の温度と明るさを帯び、それによって夏が固有のかたちを得ることになります。
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掲句も含め、どこか懐かしいモダニズムを感じさせる句に惹かれた。以下もそう。
落下距離と破壊の試験鱗雲 同
焚火する明星の下駱駝の前 同
そして、いちばん好きになったのは、こんな愉快な句。
三人でボート被りて川辺まで 同
草野早苗『ぱららん』2020年11月/金雀枝舎 ≫版元ウェブサイト
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