【週俳12月・1月の俳句を読む】
家にいる時間が増えて、ますます身体感覚が希薄な日々。
冬の寒さは自身の肉体を意識させてくれるのかもしれない。
水鳥へメガネケースのかぱと鳴る 藤田俊
メガネケースを閉める「かぱ」という音が的確で、いままさに聞いたような気分になる。水鳥を見るためにメガネを取り出したのだろうか。メガネを取り出し、世界とつながる音としての「かぱ」のようにも聞こえる。冬の水辺の景色のなか、水鳥と自身の肉体だけが浮き上がってくるようだ。
手袋のままで証明写真撮る 藤田俊
冷たい外気から逃れて、小さな空間の中に入る。コートも脱がないほど、急いで撮っているのかもしれない。やはり「手袋のまま」がこの情景を深めていて良い。「丁寧な暮らし」とは違う、忙しい、でも懸命な日々がそこにあるようで、共感する。
水鳥を指す利き腕の重たさよ 箱森裕美
この句も水鳥を詠んでいて、水鳥だからこそ句に深みと景の広がりを生んでいる。
水鳥を指して、隣にいる誰かに話しかける。そんな行為の最中、隣の誰かでも水鳥でもなく自身の腕の重さに意識が向かっているのが特異で、その内省が魅力的。冬の水辺の寒さが自身の肉体を実感させるのかもしれない。
あかぎれに悲鳴ちいさく手を洗う 木田智美
「悲鳴ちいさく」に目をとめてしまう。小さくあげる悲鳴をあれこれ想像してしまうのだ。小さくても切り傷は身に響く。痛みを感じているその一瞬に躍動感が溢れる。
鳥かごにパーカーかぶせたらおやすみ 木田智美
一読、鳥かごの鳥に言う「おやすみ」かもしれない、と思ったけれど、そばにいる子どもに語りかける「おやすみ」と取りたい。鳥かごをいつまでも見ている子。鳥かごにパーカーをかけて鳥と子を引き離すようだ。「おやすみ」の優しい余韻が耳に残る。
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