2021-04-04

【中嶋憲武✕西原天気の音楽千夜一夜】鈴木茂「砂の女」

【中嶋憲武✕西原天気の音楽千夜一夜】
鈴木茂「砂の女」


憲武●すっかり春めいてきましたので、まあ春を通り越して初夏と思える日もありますが、春めいたこの曲を。鈴木茂「砂の女」。

 

憲武●「砂の女」と聞くと安部公房の作品を思ってしまいますが、内容はまったく違います。歌詞を読むと冒頭、「風まじりの 雪がすべる 浜辺に」とありますので冬なんですが、曲は春っぽいです。うーん、もしかして春の雪ですかね。作詞松本隆、作曲鈴木茂ですね。1975年3月発売の「バンド・ワゴン」に収録されてます。

天気●このアルバム、当時、かなり好いてましたよ。久しぶりに聴いて、なんだかうれしかったです。

憲武●これはいいアルバムですよね。鈴木茂は、「はっぴいえんど」から「ティン・パン・アレー」を経て、このアルバムをロサンゼルスで録音しました。タワー・オブ・パワー、スライ&ザ・ファミリー・ストーン、リトル・フィートなどのミュージシャンが参加してます。

天気●アルバム2曲目「八月の匂い」は、もろにリトル・フィート。クレジットを見ると、ビル・ペインがピアノ。

憲武●そんでヴォーカルはなんとなく大滝詠一テイスト。「八月の匂い」自体が大滝詠一っぽいのかなー。

天気●メロディーとか、そんな感じもありますね。大滝詠一、初期は米国南部的に泥臭い要素がありましたし。ただ、このイントロから歌唱へ、おっ、リトル・フィート! ローウェル・ジョージ! と思いましたけどね。

憲武●それも確かにありです。「砂の女」のドラムはタワー・オブ・パワーのデヴィッド・ガリバルディです。

天気●結成時のオリジナル・メンバー。途中抜けたりもしながら、現メンバー。

憲武●ギターは鈴木茂なんですが、ど頭のギターの音色から引き込まれてしまいます。

天気●ダブルストップ(2音)とグリッサンド(滑らせる)の、いかにも鈴木茂なギタープレイでイントロが始まる。音色的におそらくストラトキャスター。

憲武●中ジャケにもある赤いギターですね。鈴木茂の「自伝 鈴木茂のワインディング・ロード」によると、曲はジョージ・ハリソンのコンサートを観てきた高揚感のままに、アパートの台所で一気に出来たようですが、詞はあとで送ってもらったようで、そのミスマッチな感じがいいんです。詞は心にチクチクするような詞です。

天気●歌詞は全曲、松本隆ですね。『微熱少年』が松本隆の小説タイトル(1985年/新潮社)にもなっていることからすると、書きたいように書いた詞、ということかもしれません。歌謡曲業界・Jポップ業界から要請されて売れ線を狙った歌詞とは違って、思いきり文学的・詩的に、って感じで。

憲武●鈴木茂の原点、はっぴいえんどで主に作詞を担当していた松本隆は宮沢賢治、山之口貘といった作家に影響されていたようで、そういった文学的なモチベーションは持続していたのかもしれません。いやー、このアルバムをおすすめしますよ。ええ。 


(最終回まで、あと813夜)
(次回は西原天気の推薦曲)

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