【中嶋憲武✕西原天気の音楽千夜一夜】
ジ・エスコーツ「By The Time I Get To Phoenix」
天気●カズオ・イシグロの短篇集『夜想曲集』に出てきたこの曲を。
天気●ジミー・ウェッブ、60年代後半に数々の名作を書いた人ですね、「ビートでジャンプ!」とか、そのジミー・ウェッブ作。グレン・キャンベルの歌唱で1967年にヒット。かなりスローに歌ってますが、このジ・エスコーツはアップテンポ。
憲武●曲の感じがガラッと変わってますね。グレン・キャンベルの方がよく耳に馴染んでます。
天気●グレン・キャンベルのときに付いた「恋はフェニックス」というわけのわからない邦題で知られていますが、不死鳥じゃなくて、アリゾナ州フェニックス、彼女に置き手紙を置いて出てきちゃった。彼女が起きるあいだにフェニックスに到着。ほかにもアルバカーキーやオクラホマといった地名が出てきます。クルマで走ってるんでしょうね。ロード・ムーヴィーならぬロード・ソングです。スローテンポだと、切なさが際立つんですが、このジ・エスコーツのテンポと歌唱だと、悲しいけれど、新しい生活の明るさみたいなのも伝わる。
憲武●そうですね。ときおり入る鳥の鳴き声のようなピッコロ、この年代の特徴でしょうか、いいんです。
天気●ジ・エスコーツはニュージャージーの刑務所で囚人7人が結成って、いう、まあ変わり種、と言っていいんでしょう。この曲は73年の初アルバム収録です。
憲武●73年ですか。このアルバムでミラクルズの「Ooh, Baby Baby」もカヴァーしてますね。この曲もいろんなアーティストにカヴァーされてます。
天気●70年代、米国北部の黒人コーラスグループ、いわゆるノーザン・ソウルのたぐいって、めっちゃ良いんですよね。この曲は、ベースのビートやらギターの張りのある音やら管楽器やらストリングスやら、とにかく大好物の音です。ああ、どっか、ドライヴ、行きたくなっちゃった。もちろんアリゾナじゃなくて。
(最終回まで、あと810夜)
(次回は中嶋憲武の推薦曲)
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