〔岡田一実『光聴』特集〕
『光聴』版元後記
素粒社 北野太一
岡田一実さんから句集出版のご相談を受けたのは2020年11月25日。その年の7月に素粒社を立ち上げて、11月初めに小津夜景さんの『漢詩の手帖 いつかたこぶねになる日』と鴇田智哉さんの『エレメンツ』をつづけて刊行したところで、岡田さんは『エレメンツ』にかなりの衝撃を受けたとのことだった。
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『光聴』の判型は天地175ミリ・左右110ミリと、句集などでよくある四六判(天地188ミリ・左右128ミリ)よりかなり小ぶりな新書サイズで(ちなみに、俳句にとって四六判の天地は広すぎるんじゃないだろうかと前から思っている)、サイズ感については岡田さんにあらかじめ心づもりがあったということは最初期のメールから確認できる。句のフォントについても、事前に原石鼎『花影』の字体に似せてほしいという要望があったので、モリサワのA1明朝を提案した。
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装丁案は3パターン7案がデザイナーより送られてきた。著者にお見せしていまの装丁に決まったわけだが、じつを言うと個人的には別案が推しではあった。押しつぶされた枯れ草のような模様が金の箔押しとなっているカバーに、ピンクに近い上品な朱色の帯。見るとなんとなくチカチカする感じが、「光聴」という書名にふさわしい気がした(ときどきこうして採用されなかった装丁案のことを考えてしまう)。とはいえ現行の、半透明のクリアファイル様の素材によって表紙とカバーの図像が二重化される意匠もやはり捨てがたく、SNSなどで読者や書店の方がアップしてくれた写真を見かけるたび、ああ、これが『光聴』の装丁だな、と思う。
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『光聴』のカバーに印刷されている、植物の汁で描かれたような絵柄はUVインキで印刷されていて、これがけっこう高額で予算的に校正を取ることがむずかしかったため、印刷所での現場立ち会いとなった。ところが当日、デザイナーは出産間近で検診の予約が入っていたためどうしても来られず、朝の9時に埼玉の八潮駅で印刷会社の担当のMさんと待ち合わせ、そこから車で10分ほどの印刷所へ向かった。こぢんまりした受付のある印刷所に着くとさっそく、Mさんにスーツ姿の男性を紹介され名刺交換をしたが、いまだにあの人が何者だったのか、どういう経緯でそこにいたのかわかっていない(印刷所の人ではなかった)。しばらく待っていると、作業着姿の若い男性が刷りたてのカバーを持ってきてくれたので、色見本を見ながら確認し、写真に撮ってそれをデザイナーに送り、2回ほどインキの量を調整してもらって校了となった。
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昼前に八潮駅でMさんとわかれたあと、帰りのつくばエクスプレスに揺られながら、さきほど校了となった『光聴』の一句を思い出しつつ、午後にやるべき仕事のことを考えていた。
空に日の移るを怖れ石鹼玉 岡田一実
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