【空へゆく階段】№51 解題
対中いずみ
「晨」48号(1992年3月号)掲載。本号の発表作10句。
落葉掃く箒のひとつあまりけり
須磨寺へ賀状いちまい來りけり
ころがりて重たきほうが我の毬
初夢のわが大声の久しけれ
初鴉海へ向ふは一羽きり
人入りて家あたたまる三日かな
早口に良寛さまといふ初湯
前歯いまいつぽんもなし春著かな
すこし背のひくくなりたる湯冷かな
雪まろげ一心の君見やうとは
掲出句のうち、〈初夢のわが大声の久しけれ〉は句集『先生から手紙』に収められている。夢のなかで自分の大きな声に驚いている。大声ほど田中裕明に似合ぬものはない。しかし、抑制を外したらほんとうはもっと大きな声で何かを叫びたいようなこともあったかもしれない。
2008年に小澤實の主宰誌「澤」が「創刊八周年通巻百号記念号」で田中裕明の特集を組んだ。そのなかで小澤は裕明への悼句として〈大声を出さで一世やさるすべり〉を発表している。そのおだやかなひととなりを讃えた句とも読めるが、大声を出してほしかったと惜しんでいるとも読める。妙に心に残る一句である。
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