1. ウィズ・コロナ 杉原祐之
降り止まぬ雨のなかなる御復活
近衛兵たりし曽祖父昭和の日
関所跡勿忘草の広がれる
柔らかき折り目をつけて萩若葉
鎖されたる峠の茶屋の残花かな
筋トレを兼ねて鍬振り風五月
マスクずらせる祭法被の男どち
観客を入れざる競馬槻若葉
ダービーを外せし同士飲みにゆく
大疫の町に蛍の戻り来る
有耶無耶にせしこと多し梅雨に入る
荒梅雨のなかをUber Eatsゆく
保育園帰りに潜る茅の輪かな
一匹の蚊を追ひ掛けて喰はれもす
目に染みて四万六千日の香
風呂場のみ残つてをりぬ出水痕
日傘傾げて何やらを話し込む
密着のマスクの内の玉の汗
鍬形を肩に載せ来て見せくるる
日盛の外階段を降りにけり
踏み分ける度に蝗の跳ねにけり
虐待の噂も少し秋簾
横たふる稲架の資材に露しとど
雨の降りさうで降らざる秋の暮
敬老の日の晴れ晴れと暮れにけり
十六夜のカレーうどんの香りかな
高原の靄の晴れたる草紅葉
昨夜までの雨の光れる刈田かな
爽やかに土曜保育の声響く
ハロウィンの南瓜もすなるマスクかな
石階の一段づつの虫の声
豊作と云ひ櫨買の値切りくる
公園の遊具の象に時雨れけり
熊手しか売つてをらざる酉の市
峡の日の色に染れる吊るし柿
木枯の最中へバスを降りにけり
懸垂をする子に落葉降りにけり
落葉踏む病児保育の子を連れて
落葉踏む音に蹴る音重なれる
逞しくなりし後輩年忘
歳末のティッシュを配るのも仕事
好晴のままに冬至の暮れにけり
鼻風邪の治らぬままに年暮るる
蝋梅の乾びながらも香るかな
復元の一乗谷の雪起し
寒垢離へ髭を伸ばして来りけり
着ぶくれてゐてスケボーでやつて来る
アルコール消毒の手の悴める
旧正の大特売の台湾茶
広大な寺領の名残麦を踏む
杉原祐之(すぎはら・ゆうし)平成十年「慶大俳句」入会、平成二十二年四月 第一句集『先つぽへ』刊行。師系:高浜虚子、清崎敏郎、所属結社:「山茶花」「夏潮」
0 comments:
コメントを投稿