2021-11-06

1. 杉原祐之 ウィズ・コロナ




 

1. ウィズ・コロナ 杉原祐之


降り止まぬ雨のなかなる御復活

近衛兵たりし曽祖父昭和の日

関所跡勿忘草の広がれる

柔らかき折り目をつけて萩若葉

鎖されたる峠の茶屋の残花かな

筋トレを兼ねて鍬振り風五月

マスクずらせる祭法被の男どち

観客を入れざる競馬槻若葉

ダービーを外せし同士飲みにゆく

大疫の町に蛍の戻り来る

有耶無耶にせしこと多し梅雨に入る

荒梅雨のなかをUber Eatsゆく

保育園帰りに潜る茅の輪かな

一匹の蚊を追ひ掛けて喰はれもす

目に染みて四万六千日の香

風呂場のみ残つてをりぬ出水痕

日傘傾げて何やらを話し込む

密着のマスクの内の玉の汗

鍬形を肩に載せ来て見せくるる

日盛の外階段を降りにけり

踏み分ける度に蝗の跳ねにけり

虐待の噂も少し秋簾

横たふる稲架の資材に露しとど

雨の降りさうで降らざる秋の暮

敬老の日の晴れ晴れと暮れにけり

十六夜のカレーうどんの香りかな

高原の靄の晴れたる草紅葉

昨夜までの雨の光れる刈田かな

爽やかに土曜保育の声響く

ハロウィンの南瓜もすなるマスクかな

石階の一段づつの虫の声

豊作と云ひ櫨買の値切りくる

公園の遊具の象に時雨れけり

熊手しか売つてをらざる酉の市

峡の日の色に染れる吊るし柿

木枯の最中へバスを降りにけり

懸垂をする子に落葉降りにけり

落葉踏む病児保育の子を連れて

落葉踏む音に蹴る音重なれる

逞しくなりし後輩年忘

歳末のティッシュを配るのも仕事

好晴のままに冬至の暮れにけり

鼻風邪の治らぬままに年暮るる

蝋梅の乾びながらも香るかな

復元の一乗谷の雪起し

寒垢離へ髭を伸ばして来りけり

着ぶくれてゐてスケボーでやつて来る

アルコール消毒の手の悴める

旧正の大特売の台湾茶

広大な寺領の名残麦を踏む


杉原祐之(すぎはら・ゆうし)平成十年「慶大俳句」入会、平成二十二年四月 第一句集『先つぽへ』刊行。師系:高浜虚子、清崎敏郎、所属結社:「山茶花」「夏潮」


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