2021-11-06

2. 回り出す 西生ゆかり




 


2. 回り出す 西生ゆかり


一斉に薔薇満開や歪め合ふ

手に薔薇の涼しさやがてやはらかさ

黄薔薇白薔薇回り出しさう回らざる

ソフトクリーム時計回りに山と谷

舐めてをりソフトクリーム撮る前に

走り梅雨どさつと落つる粉チーズ

ベランダに草刈鎌の乾きゆく

捕虫網より高き人低き人

氷一つ公民館の踊り場に

作り滝が作るほかなき光かな

西瓜割りまづは西瓜を使はずに

電卓に使はぬ記号夏の星

材木を斜めに運ぶ蝉時雨

七夕や横顔のあるマグカップ

秋蝶過ぐバスより見ゆる間取図を

虫籠の持ち手がたまに立つてゐる

柿剥くや午後は漫画と決めてゐて

小鳥来る釘ごと青きテーブルに

ドーナツに断面四つ秋の暮

最後まで誘はれてゐる芋煮会

ゐのこづち怒らぬ人は外の人

全員がビンゴと云ふまでの月見

短日の椅子逆さまや椅子の上

奥からおでん誰かには会へる夜

山眠る電子レンジに秒と分

絨緞に寝て親指を名付け合ふ

クリスマス止血バンドに小さき鈴

蹴飛ばさぬやうに聖樹をここに置く

鴨の昼何も云はなくても言葉

よちよちと歩みて鴨の泳ぎ出す

花アロエ鳥を動かす鳥の脚

雨が雨追ふ如月の窓硝子

日脚伸ぶ何か拾ひに三輪車

階段が送る人体水温む

目の幅を目玉が動くチューリップ

エイプリルフール顔いつぱいに顔

黒蜜に隠るる蕨餅の皺

いくらでも暗くなれる日花水木

なよやかに酢味噌の海を蛍烏賊

蛍烏賊一人になると夜が来て

春の夜の線路は北へ行く鎖骨

駅弁のしよつぱき竹輪遅桜

竹籠の左ばかりを春の蠅

沈丁花回覧板をじつくりと

回り出す春の芝生に子を置けば

風船が花弁に生まれ変はる音

花散るや蜂蜜色のサングラス

囀を大きなポケットの服で

鷹鳩と化して雀のしんがりに

雀を辞めて葉桜の鳥となる


西生ゆかり(さいしょう・ゆかり)1984年生まれ。第一回街未来区賞。第三回円錐新鋭作品賞白桃賞。第三回新鋭俳句賞(俳人協会主催)準賞。


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