2022-02-13

〔今週号の表紙〕第773号 段ボールの夜 小津夜景

〔今週号の表紙〕第773号 段ボールの夜


小津夜景


いろいろあって引っ越すことになり、去年の夏から古い家と新しい家を行ったり来たりしていた。

で、ついに先週、古い家を引き払った。

こんなに時間をかけて引っ越すんだもの、新しい家での暮らしはさぞスムースに始まるだろう、などと夢を見ていたわたしは浅はかだった。現在、家の中は段ボールだらけ。なんでも物資不足と流通不備とのことで、まったく内装工事が終わらなかったのである。

でも、段ボールに囲まれて眠るのはたのしい。

新しい家は、夜、ものすごく静かだ。

あまりにも静かなので、ふとんに入ってじっとしていると、昼間のいろんな生活音が、ふっと耳に還ってくる。

その音を、段ボールの気配のする闇のまんなかで、聞くともなしに聞いている。

そして思う。幼いころもこうだった、と。

それにしても、音って波だなあ。まるで目のない魚になって、洞窟のなかを泳いでいるみたいだ。


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