【空へゆく階段】№69 解題
対中いずみ
「青」312号に「昭和五十五年度新人賞決定」の企画が組まれ。「青」の第一回「新人賞」は、田中裕明58点、今河君江50点を得て、二人受賞となった。裕明は「西する旅」15句で応募している。爽波の「審査のあとに」を記しておく。
雨安居ぶあつき水の澄みにけり北ゆきて早苗投げゐる人にあふひげづらの老鴎外や明易し峡名だたるいまだ濁りの代田あり日わたりて松影ほそる夏花かなあと、「西国の」(西國の驛に夜明を待つ立夏)「虚子の句の」(虚子の句の心たのもし薄暑なる)「旅は山の」(旅は山の代田雀をおどろかし)などをマークした。この作者など、その持てる力の全部をここへぶつけてくるものと期待をもって句稿に向ったが、率直のところ、少し拍子抜けという感に戸惑ってしまった。この人にしてなお、四月から学部へ進んで実験やら何やら時間的にも拘束されるところが増えて、新しい環境に作句のペースを適合させるまでに至っていないようだ。しかし失敗作は失敗作なりに、読み手の胸に何かを訴えてくるところに、この人なりの良質の詩質を感じる。今回はこの人の持てる詩質によって辛うじて十五句を乗り切ったというところであろうか。
なお、15句中〈西国の駅に夜明を待つ立夏〉〈北ゆきて早苗投げゐる人にあふ〉〈日わたりて松影ほそる夏花かな〉〈夏わらびここに眠りて日暮まで〉の4句が、句集『花間一壺』に収められている。
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