2022-05-22

対中いずみ【空へゆく階段】№71 解題

【空へゆく階段】№71 解題

対中いずみ


「晨」49号(1992年5月号)掲載。本号の発表作10句。

天井の大鳴り厄を落しけり

厄落したるひとの手の赤きかな

山焼によき青空の濡れてをり

山焼のはじまる恋と思ひけり

山焼の日のおそろしき奥座敷

嵐山春の浮寝のつづきをり

よく見ればみな人の顔おぼろ夜は

囀りを聞くてのひらのつめたくて

春の虹蹴上あたりに立ちにけり

春寒の寺子屋にゐる心地する

「晨」40号からつづいた「読書室」もここで一段落する。

前年に波多野爽波を亡くし、この年、第三句集『櫻姫譚』を上木した。人生の大きな節目のころであろう。〈嵐山春の浮寝のつづきをり〉には師恋の風もある。

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