2022-06-05

西原天気【句集を読む】液体の肌理 木田智美『パーティは明日にして』の一句

【句集を読む】
液体の肌理
木田智美パーティは明日にして』の一句

西原天気


採血を終えてプールのような空  木田智美

プールの水面が静かなときは空が映る。水面を見れば、空が見えることになる。けれども、逆は成立しない。当然ながら、空に水面は映らない。この句は、空を見て、プールのようだと言っている。この直喩は、互いの反映に依るものではないから、水面に映る空、という古くから繰り返されてきた景色を持ち出す必要はないのかもしれないが、ある種の逆転の参照は、私たち読者によく馴染んだもののほうが、効果が確実、ということは言えそうです。想念の飛躍のための踏み板は、ふつうに地面に敷かれたもの(つまりそれ自体に飛躍がないもの)のほうがよかったりする。

前半の「採血」は、どうでしょうか。

後半の空と、因果や散文的な連続性はない。いわゆる二物衝撃的な造り。二物のあんばいを味わうには、肌理(きめ)を愉しむほうのがいい。この句の場合、とくにそんな気がします。

この句の肌理。いい感じに調整されていて、それはやはり、液体の肌理でつながっていることもあるでしょう。血が抜かれたこと(ってへんな言い方ですが)のちょっとした虚脱も、この空によく合っているように思いました。さらにいえば、イメージの作用として、全体の青(薄い青)一色の景色に、血の色が細くひとすじ加わる。ここも、視覚的に、なかなかの感興です。


木田智美句集『パーティは明日にして』2021年4月/書肆侃侃房



0 comments: