【中嶋憲武✕西原天気の音楽千夜一夜】
ザ・キングトーンズ「ラストダンスはヘイジュード」
憲武●音楽のプロデュースって、時おり「そうか! そういうことだったのか!」というような気付きを与えてくれたりします。ザ・キングトーンズで「ラストダンスはヘイジュード」。
憲武●はい。ドリフターズの「Save The Last Dance For Me」とビートルズの「Hey Jude」が見事にドッキングしてますね。
天気●おもしろいですね。初めて聞いた。「グッナイ・ベイビー」はシングル盤を持ってましたし、女性シンガーと一緒にやった不可思議なLPも持ってたんですが、これは知らなんだ。
憲武●この曲は1981年リリースの「Doo-Wop! STATION」に収録されていて、プロデュースは大瀧詠一です。冒頭に英語DJが入ってますが、曲間にトークの入るラジオ番組風の構成になっているようです。山下達郎の「カムアロング」と同じ構成ですね。sideAがマーク・ハーゲン、この人知りません。sideBがJ-WAVE草創期に活躍していたキャロル久末です。
天気●81年は、大滝詠一の大ヒットアルバム『A LONG VACATION』の年ですね。
憲武●そうなんです。キングトーンズは1958年に結成されたドゥーワップのグループで、大ヒットした「グッドナイト・ベイビー」は1968年です。この曲で初めてキングトーンズを知ったんですけど、10年かかってるんですね。リードテナーの内田正人は3年前に亡くなってます。
天気●ああ、亡くなったんですか。
憲武●はい。82歳でした。では二つの曲がどれくらい似ているのか、ご存知ない方もいらっしゃると思いますので、聴いてみましょうか。まずザ・ドリフターズの「Save The Last Dance For Me」です(≫https://youtu.be/n-XQ26KePUQ)。次にザ・ビートルズの「Hey Jude」(≫https://youtu.be/A_MjCqQoLLA)。コード進行が似てますかね。
天気●進行というか、組み合わせがどちらもいわゆるスリーコード、長調のルートと4度と5度の構成なので、メロディーは乗りますね。
憲武●「ラストダンスは私に」はE、A、B、「ヘイジュード」はF、B♭、C。
天気●はい。
憲武●「ヘイジュード」の作曲に関しても、いろいろあって、「ポール・マッカートニーが『ラストダンスを私に』を聞きながら作った/インスパイアされて作った/思い出しながら作った」とバラバラです。「ビートルズ全曲解説」の中でティム・ライリーは、「即興で作った」と言い、当のポールは何て言っているかというと、「THE BEATLESアンソロジー(2000年 リットーミュージック)」によると、「(ジュリアン・レノンを元気づけるために車に乗せて、1時間くらい走っている時に)、僕は歌い始めた。"Hey, Jools Don't make it bad. take a sad song and make it better…。ジュリアンに向けた、楽観的で、希望あるメッセージだった」と、こう語ってますが、即興のように受け取れます。つまりどっちも正しいんでしょうね。ポール自身は言ってませんけど、もともとポールの頭の中には、ドリフターズの曲があった。と。
天気●いずれにせよ、下敷きには「ラストダンスを私に」があるんですね。
憲武●そうなんですね。大瀧詠一は二つの曲のコード進行に気づいていたんでしょうね。見事な荒技だと思います。
(最終回まで、あと755夜)
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