【空へゆく階段】№74 解題
対中いずみ
「青」主宰波多野爽波は毎月、「選後に」と題して雑詠句の鑑賞を施している。ここでは2つ引いておこう。
孕猫よぎる野点の傘の下 塩谷康子
まさしく現場での「出会い」の句。ものを見る目が養われてくると、こういう事実を素早くつかみ取る。季題にもたれかかった句に些か食傷気味のとき、こういう句に出会うとこちらの心も洗い流される思いがする。こういう句は続けて出来るようになると俳句が面白くてたまならくなるのだが、さてとなるとそうたやすくは行かない。
花篝甘き玉露をふくみつつ 中邑道子
控え目な句だが、その時、その場での作者の心情が過不足なく出ているところが良い。玉露を口にふくんで、心底、甘いと感じるときはそうそう何度もと云うことではないだろう。読み手をして改めて玉露の味わいに誘うだけのものをこの句は持っているようだ。静かで控え目だが嘘や誇張のない句がもっとあっても良い。
310号の裕明6句は以下の通り。
初蛙料理の間とて暗かりき
天道虫宵の電車の明るくて
病ひぬけして春蝉にむかひけり
早苗饗のひたぶる風に硯あり
寝すごせし日は早苗饗の天気なり
心太夜毎かよへば道となり
(太字は『花間一壺』に収められている)
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