2022-07-31

【中嶋憲武✕西原天気の音楽千夜一夜】ジャクソン・ブラウン「The Late Show」

【中嶋憲武✕西原天気の音楽千夜一夜】
ジャクソン・ブラウン「The Late Show」


天気●夏の夕暮ってかんじのジャケット写真のアルバム、ジャクソン・ブラウン「レイト・フォー・ザ・スカイ」(1974年)。そのA面の最後、「The Late Show」です。

 

天気●ジャクソン・ブラウンは、70年代のいわゆるシンガー・ソングライター・ブームのわりあい中心的な位置にいた人だと思うんですが、この3枚目のアルバムはなかなかの名盤です。

憲武●このジャケット、むかしレコード店でもらってた「ロック名盤100選!」みたいなリーフレットに必ず載ってまして、よく目にしてたんですが、今まで1ミリも聴いてないんです。ウエストコーストって、あんまり聴いてないんです。聴いていればよかった、と今、激しく後悔。いい曲です。

天気●レコードがCDに置き換わって、アルバムのA面B面という素晴らしいスタイルが失われたわけですが、A面の最後ってとても重要で、いろいろなパターンはあるのですが、このアルバムの場合、盛り上がって盛り上がって胸がいっぱいになった状態で、再生機に近づき、興奮さめらやらぬままレコードを裏返すって感じでした。

憲武●ありましたありました。そういう裏返し方。

天気●歌詞は、あまり具体的ではなくて、何がレイトショーなのかもわかりにくい。でも、終わり近くに、クルマ(旧型のシボレー)で二人旅立つってことからすると、いろいろ哀しいことやら疲弊することがあったんだろうな、という感じです。

憲武●感覚的で、ちょっと意味の取りにくい歌詞ですね。ジャケットの車、シボレーベルエアでしょうか。

天気●ジャクソン・ブラウン独特の歌唱。泣きのあるメロディラインです。デヴィッド・リンドレーのスティールギターが裏メロでもソロでも、よく泣いてて、歌を盛り上げます。そのほかのバックの演奏、繊細かつ大らか。

憲武●いやあ、ありましたねえ。こんなふうなギターやピアノの絡み方。

天気●演奏の仕掛けとしては、4分40秒あたり。歌詞にシボレーが出てきて、クルマの右ドアがバタンと閉まる。ギターのフレーズがからんで、左のドアがバタンと閉まる。エンジンの音が響くと同時に、ギター・ソロが最後のフレーズに入っていく。このエンディング付近は、しらじらしく劇的すぎて、ちょっと恥ずかしくもなるんですが、いや、やっぱりこれくらいコッテリ盛り上げてくれていいんだ、という結論。

憲武●レコードの時代は、ジャケットも大きかったので、曲を聴きながらジャケットをつくづく眺めて、曲の世界に没頭するっていう聴き方もありました。このジャケットでは、シボレーがここから走り去ってゆくという空想も出来ますね。

天気●夏は、ゆうがた、暮れきる前のすこし明るくてすこし涼しくなった時間帯が最高です。それにぴったりの曲だと思ってるんです。つまりレイトショーの始まる前。人によっては、このシボレーの発進を夜中と感じるかもしれませんが、ともかく、ひさしぶりに聴いて、気持ちがじわっとなりました。


(最終回まで、あと750夜)

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