2022-10-30

後記+プロフィール810

後記 ◆ 西原天気

 
先週号の「後記」に福田若之さんが書いていた話題、すなわち、充分に既知であるはずのものへの謂れなき違和感。これって「ジャメヴュ」と呼ばれる現象かな、と思いました。デジャヴュ(既視感)の反対。

私はむかし、家とか道ではなく、人の顔にジャメヴュを味わうことがありました。この気味悪さ(自分の感覚に対する気味悪さ)をうまく言えないのですが、例えば、電車の向かいの席に並んでいるものは、まぎれもなく顔のはずなのに、それが人の顔ではないように思えてくる。この瞬間は、ちょっと怖ろしい。

逆に、「謂れなき幸福感」を味わう瞬間もありました。例えばある街角にさしかかったとき、自分を取り囲む世界が善意と希望と素晴らしい刺激に満ちているような気になる。突然です。理由はわからない。

自分にとって、ジャメヴュも突然の幸福感(多幸感)も、ある種の誤作動、自分の感覚なのか認識なのかの誤作動なのだと、いま思うのですが、年を経るにしたがって、どちらの経験もなくなってしまった気がしていて、それがなぜなのかもわからないのですが。

それではまた、次の日曜日にお会いしましょう。


no.810/2022-10-30 profile
 
■宮本佳世乃 みやもと・かよの
1974年生まれ。「炎環」「豆の木」「オルガン」に所属。第35回現代俳句新人賞。句集に2012年『鳥飛ぶ仕組み』、2019年『三〇一号室』。

■中嶋憲武 なかじま・のりたけ
1960年生まれ。「炎環」「豆の木」。2013年週俳eブックス「日曜のサンデー」。2018年 第四回攝津幸彦記念賞・優秀賞受賞。2019年、第0句集「祝日たちのために」(港の人)。山岸由佳とのコラボレーションによるwebサイト「とれもろ」
https://toremoro.sakura.ne.jp

■川島由紀子 かわしま・ゆきこ
「窓と窓」常連、「びわこ句会」代表。句集『スモークツリー』(2010年)(第60回滋賀文学祭文芸出版賞)、『阿波野青畝への旅』(2019年)。ブログ「びわこ句会 川島由紀子の俳句ライフブログ」

■西原天気 さいばら・てんき
1955年生まれ。句集に『人名句集チャーリーさん』(2005年・私家版)、『けむり』(2011年10月・西田書店)。笠井亞子と『はがきハイク』を不定期刊行。ブログ「俳句的日常」 twitter

福田若之 ふくだ・わかゆき
1991年東京生まれ。「群青」、「オルガン」に参加。第1句集、『自生地』(東京四季出版、2017年)にて第6回与謝蕪村賞新人賞受賞。第2句集、『二つ折りにされた二枚の紙と二つの留め金からなる一冊の蝶』(私家版、2017年)。

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