2022-11-20

西原天気【句集を読む】 ダイドーという微妙もしくは機微 杉原祐之『十一月の橋』の一句

【句集を読む】
ダイドーという微妙もしくは機微

杉原祐之十一月の橋』の一句

西原天気


商品名・企業名を詠み込んだ俳句は多くはないが、それほどめずらしくはない。けれども、「ダイドー」となると…。

ダイドーの自販機ありて花アロエ  杉原祐之  

「なるほど」と意表の中間あたり、俳句的と非俳句的の境目、なかなかに微妙な線をついてきたので、この句に一瞬立ち止まってしまった。買う用はないのに、ふと視界に入ってきた駐車場脇の自販機に歩がゆるむかんじ。

ところで、日本中いたるところで目にする缶ボトル清涼飲料の自販機。台数は約200万台だそうだ。ダイドーの自販機は約28万台で業界第3位のシェア。自社サイトのデータとはいえ、第3位とは大したものであるのだが、いわゆる「メジャー」なかんじはない。商品イメージ・企業イメージは個人によって異なるので、「私には」の前置きが要るが、そこはかとないマイナー感をまとっている気がする。よく言えば、身近?

ダイドードリンコという社名(ドリンク+カンパニー?)の音の響きのせいだろうか、ちゃんと見たことはないけど、缶のデザインのせいだろうか、言ってしまえば、ちょっと野暮ったい(じゃあ野暮ったくない缶コーヒーはどれなんだ? という詰問は控えてくださいね)。というか、あの、清涼飲料の自販機自体が、街角の風景をいなたいものにする元凶ともいえるわけだから、ダイドーばかりを責めるわけに行かない。

なんの話かわからなくなってきたので、掲句。

とにかく、〈ありて〉というんだから、あるのであって、私たちみんなが知っているあれが、あるのだ。〈花アロエ〉は冬の季語。自販機には「HOT」という赤い表示が多い季節。

ただ、花のないアロエのほうがおなじみだろう。そして、あの「アロエ」もまた、庭先に、わざわざ植えるようなものでもない。勝手に生えてるはずはないだろうが、美観に寄与しているわけでもなさそうだ。ダイドーとアロエはうまく釣り合う、というと、ダイドーからもアロエからも叱られそうだが、そのあたりの微妙、というのは昨今悪い意味で使われることが多いようなので、機微。なんともいえぬバランスの醸し出す機微が、この句にはある。

だから立ち止まっちゃったんだね。

なお、同句集から、ほかに。

去年今年なくレーダーの回るかな  杉原祐之(以下同)

旅客機の真中の座席まで冬日

夕立やカフェの覆ひをへこませて

など、喉越しのいい句が目立つ。盛り込みすぎず、かといって旧弊な手垢や澱を感じることはほとんどない。生活感はあるが、ちょっと都会的で、それだからこその実感がある。


2022年4月/ふらんす堂 ≫版元ウェブサイト

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