【中嶋憲武✕西原天気の音楽千夜一夜】
マーヴィン・ゲイ「What's Going On」
天気●私の回はベース特集ということで、前回、ジェリー・ジェモットとチャック・レイニーの名前を出したからには、ソウル、R&B系の大御所として、ジェームズ・ジェマーソン(James Jamerson)は、やはり出しとかなきゃ、ってわけで、マーヴィン・ゲイの「What's Going On」です。
天気●1971年の同名アルバムの1曲目。知らない人がいないってくらいの名曲です。
憲武●この曲に影響を受けたと思われる曲も多々あります。
天気●えっ、そうなんですか? 別格に至高すぎて、影響とか真似っことか引用が思い当たらないんですが?
憲武●えーと、ぱっと思いつくところでは、ピチカートファイブの「惑星」、松任谷由実の「影になって」などです。
天気●どちらも知らない曲。聴いてみました。インターネット便利。雰囲気の影響ですかね。アレンジの雰囲気とか。
憲武●そう、雰囲気ですね。曲調の。聴いた時、「あ、これは…」と思いました。
天気●さて、ジェームズ・ジェマーソン(1936 - 1983)はモータウン・レコードのスタジオ・ベーシストで(チャック・レイニーもそうですね)、あんな曲こんな曲、いろんな曲のベース(土台)を支えていた人です。
憲武●そうでしたね。
天気●あのね、むかしむかし、洋楽雑誌に、ベーシストに「好きなベーシスト」を聞いたアンケート記事があって、いろんなベーシストの名前が挙がるなか、ポール・マッカートニーは「モータウンのベーシスト」と答えてた(私の記憶ですよ、あくまで)。モータウンって、それくらい凄い。
憲武●ジェームズ・ジェマーソンと言えば、ポール・マッカートニーへのインタビューの中でたびたび目にする名前です。ポールは最も影響を受けたベーシストだと言い、そのメロディアスなベース奏法は、「サムシング」に如実に現れています。
天気●で、「What's Going On」に話を戻すと、この映像、新曲発表の翌年、1972年のライブ。マーヴィン・ゲイがピアノを弾いてるのも新鮮なのですが、その横で弾いてるジェームズ・ジェマーソンの右手がよく見えるという意味でも貴重です。見ると、教科書どおりのツーフィンガーなんてやってない。
憲武●人差し指一本で弾いてますね。
天気●いつものように、曲全体を聴いたあと、ベースだけに耳を澄まして聴いてみる。曲自体はメジャーセヴンス・コード多用の流麗な曲調なんですが、ベースは流れすぎない。リズム面では、細かくノリながら大きなグルーヴを醸す。ああ、表現力ないですね。つまり、こういう曲って、縦に長方形は無論ダメ、丸でもダメで、楕円で、その楕円平面を水平じゃなくちょっと斜めにしたようなノリ。これがあってこそ、「What's Going On」は名曲・名演たり得るんだと思うんですよ。よくわからんけど。
憲武●楕円平面をちょっと斜めに、ですか。なるほど。すーっとは行ってないですね。むしろ小さくつまづきながら行ってる感じ。
天気●というわけで、素晴らしいベースですが、歌、うまいなあ、と、あらためて吃驚。うまいだけじゃなく、色気とキュートが同居してる。マーヴィン・ゲイ、すばらしい、ということで、次回に続きます。
(最終回まで、あと734夜)
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