一行詩 矢口 晃
立秋や朝のサラダに朝の味
灯台の芯はからつぽ秋の風
草の実やまだかもうかのバス待てり
ふるさとの働き者の案山子たち
喰つて寝て起きて寝て喰ふ生身魂
台風が近づいてきて息きれい
すぐ満つる便器の水や雁の声
露の世のガードレールの凹みかな
電球の光さまよふ秋の暮
秋麗や土偶の胎に土偶の子
すさまじやマークシートに悪い例
冬鳥や詩人の部屋の抽象画
時雨るるやボール減りゆくビリヤード
雪兎陽射の中へかくれけり
メモ用紙冬蝶がごと光帯ぶ
雪女郎薄き鏡を磨きけり
皹に消毒滲むる中年ぞ
ゆく年や喫煙室に湿布の香
縄跳が一行の詩のやうにある
洋上の影や日向や初日記
NHK集金人の御慶かな
春来しと空気一枚脱ぎにけり
光年を経て星々の凍ゆるぶ
永遠の時間潰しよ青き踏む
空嗅ぎに来てゐるおたまじやくしかな
スタンプの日付潰れし花の寺
花冷や絵札のジャック背き合ふ
束ねたる紙の弾力鳥の恋
競り負けて峡の空より落つる凧
春の蠅白きページに止りけり
春月へ渡り始めし橋の人
春夕焼いづくの硝子にて果てむ
かへるごのせつぱつまりししつぽかな
古書店にあまた聖書や五月来ぬ
自転車を地球に停めて夏休
デパートの一階は駅更衣
好きな音あつめてほたるぶくろかな
サイダーや壜に透けをるバーコード
委細面談網戸の古きラーメン屋
昼寝子に午後の時間をもらひけり
シアターに次の回待つ西日かな
流木の歳月に星涼しかり
無視できるほどの哀しさ水中花
まだ温き浮輪風呂場に洗ひけり
箱庭の人箱庭を去りにけり
人呼べば風の応ふるキャンプかな
玻璃窓にががんぼのゐる定休日
夏蝶やくるぶし熱き子供たち
発電所窓から見えて金魚肥ゆ
向日葵の高さの空へさへ行けず
○
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