風と窃盗 大塚 凱
起きぬけの雨をうかべて春の蘂
猫柳けむりがすぐにくもりぞら
寝てゐても水の溢れて彼岸かな
平熱やすこし暇なら花掃いて
筆先を濡らし春それから瞑る
巣に卵腐ることなく⻩砂ふる
君ら卒業歌をくちずさむポテトL
ふれて藤ふりむいた人から帰る
蝶よ旅は車体を擦つてもつづく
若い母とからし菜にぼやけたピント
頰へ日が梅の実を掠めては散る
蓮の葉に光らせて世に水余る
巣に蜘蛛のまぎれるくらゐ巣のひろさ
蟻地獄覗いてゐれば唾の湧く
⾚潮を嗅いで昼もてあます喰ふ
眼に夏雲つめこんで螺子どこへいつた
夏の⾬バイパス沿ひの華奢な木々
蟬の尿黙つてゐれば徐々に晴れ
電球のなかの無風の帰省かな
祭日をどつと使つてトマト煮る
⻨茶沸くまひるひそかな活断層
書きかけの筆算と乾いたコーラ
碁涼しく一日をかけてみつめあふ
網戸して都疲れのあしのうら
ゆつくりと裸になつて布摑む
誰にでも丘ゆるされて素足かな
はじめての淹れ方秋の帆のはやさ
薄めの茶天高ければそれでよく
二学期は眠たからんと藻のそだつ
荻すすき傘をささねば晴れあがり
吾亦紅沼ともならず薄い⽔
また夜業かにかまが蟹より好きと
夜長あなた僕の弱火が強いといふ
紙に散る夜食の汁よ死後もずつと
こがらしの二号以降を鍋の傷
刃渡りや冬日に揃ふあをざかな
⾦網を引き締めながら蔦枯れる
火事さなか撮れる速度で歩み去る
警官のマスクがひとりづつ違ふ
北口が徐々に廃れて鯛焼屋
冬の雷街は点字の磨り減るを
聖歌ひとり諳んじるとき河を嗅ぐ
ねむるセーターその胸のパイの滓
独楽の軸尻ポケットに浮き出てゐ
うしろから独楽とは別の風が立つ
成⼈式水のうはべを缶その他
怒鳴る人撮る人雪に滑る人
蒲越しに蒲の氷るが立ちならび
鳴りさうな葉がおほきいよ浮寝⿃
春よ遠く折鶴をなんども習ふ
○
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