【中嶋憲武✕西原天気の音楽千夜一夜】
マーティン・マル「They Never Met」
天気●ベース特集、ソウル、ファンクが続いたので、ちょっと気分を変えます。マーティン・マルの「They Never Met」。ベースは大御所ロン・カーターです。
天気●いわゆるジャズ。いい感じでバッキングして、2分5秒あたりからAメロ・ワンコーラスぶんをたっぷりソロ。サビでピアノが引き継ぐところも含め、ニンマリしちゃうことおびただしい。つまり最高です。
憲武●そこは聞きどころといいますか、この曲の醍醐味な訳ですね。おっ、いいタイミングでピアノ入ってきた、と思いました。
天気●デュエットの相手はメリサ・マンチェスター。ふたりして軽妙に歌ってますが、歌の内容は、なかなかに悲しい。意中(?)の彼女は昼シフトの看護婦さんで、夜勤の主人公は、ぜんぜん会えない。40代、50代になってもいつも母親とふたりきりの食事っぽい。で、死んだあとも、会えないっぽい。
憲武●で、They never met. でも湿っぽくない。
天気●マーティン・マル(1943年-)は、俳優兼歌手。粋なノベルティ・ソング(滑稽歌謡)がウリです。
憲武●マット・ディロンの「マイ・ボディガード」(1980年)の主人公のお父さん役で出てた、あの人だったんですね。気がつきませんでした。多才な人なんですね。美術作品も作ってる。なかなか面白い作品です。
天気●滑稽歌謡を小編成の伴奏で収めたアルバムも多い。ところが、この曲の入っている「I'm Everyone I've Ever Loved」(1977年)は、アレンジやバックのミュージシャンが素晴らしくて、突然変異か奇跡のように生まれた一枚。むかし、紙ジャケットの裏面でクレジットを眺めて、「おお!」という感じで購入。針を落とすと、大当たり、趣味嗜好にドンピシャのアルバムでした。1曲目が、リチャード・ティーのピアノで始まる。ベースはおそらくチャック・レイニー(前に話題にした)。いろいろとゲストが豪華です。
憲武●ジャズのアルバムなんですか?
天気●音楽的成分としては、きょう聴いたジャズあり、ディスコあり、ブルースあり、いつものカントリーミュージックあり。幕の内弁当です。アルバム自体が映画のバックステージ物みたいになっていて、レコード会社の社長だかプロデューサーが歌手マーティン・マルに「少しは売れるもの、つくんないとねえ」てな感じでプレッシャーをかける。いろんなやりとりが曲間に入っています。
憲武●へえ、そういう作り方なんですか。聴いてみたいです。
天気●で、「They Never Met」のベースに話を戻すと、そうそう、ベースの話でしたね。
憲武●ロン・カーターといえばマイルスグループのポール・チェンバースのあとのベーシストとして、VSOPとして、あとさまざまなセッションで聴けますが、かなり背が高い。コントラバスがよく似合います。
(最終回まで、あと732夜)
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