2023-02-11

「時代別青春俳句」10句選(平成以降) ……選とキャプション 上田信治

「時代別青春俳句」10句選(平成以降) 

選とキャプション 上田信治

「俳壇」2018年8月号より転載


水仙をとりまく青は歌ういろ  

鎌倉佐弓(『天窓から』平成4年)

平成の初め、時代精神は、幼さと見まがうほどの明るさの中にあった。


たはぶれに美僧をつれて雪解野は   

田中裕明(『櫻姫譚』平成4年)

昭和三十年代生まれの作家が、若者として、平成の俳句を書き始めた。


鼻に雪載せて不遜な瞳せり  

櫂未知子(『貴族』平成8年)

「文学」的ではない(TVドラマや広告コピー的な)感受性の持ち込み。


目が覚めてをりはつなつの畳の香  

石田郷子(『秋の顔』平成8年)

等身大の「わたし」を描く口語に近い文語体は、平成俳句の一潮流をなす。


全力で立つ空びんに薔薇の花 

五島高資(『海馬』平成8年)

不思議なほど無邪気な、ロマンティシズムとナルシシズム。


離陸するどの窓も貌実朝忌 

高山れおな(『ウルトラ』平成10年)

※「貌」に「かほ」とルビ

イラスト的光景が、時代精神の空虚を撃つ、というアイロニー。


打つ釘のあをみたりける桜かな 

髙柳克弘(『未踏』平成21年)

近代文学的な青春像を描く。「あをみたりける」には絶唱の響きがないか。


コンビニのおでんが好きで星きれい 

神野紗希(『光まみれの蜂』平成24年)

「俳句甲子園」出身の新世代による、まったく新しい口語俳句。


歩く鳥世界にはよろこびがある 

佐藤文香(『君に目があり見開かれ』平成26年)

若い作家達が、従来の俳句の引力圏を離れて書く挑戦を続けている。


なみだぐむ木か青桐はひかりが差し 

福田若之(『自生地』平成27年)

俳句を「声」として選んだ作家によって「青春」は謳われていくのだろう。


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