【中嶋憲武✕西原天気の音楽千夜一夜】
坂本龍一「青ペンキの中の僕の涙」
憲武●今年はなんという年でしょう。ここで毎回誰かを追悼しているような感じですけどね。高橋幸宏の訃報を聞いた時から、ある程度覚悟はしてたんですが、月並みな言い方ですが早すぎるよって感じでした。3月28日に逝去されました。坂本龍一で「青ペンキの中の僕の涙」。
憲武●この曲は日本生命のノベルティレコードとして1983年に製作された3曲入りのアルバムのうちの一曲です。収録曲は他に「きみについて」と「夜のガスパール」です。
天気●後半、ゆったりと重なってくる和風のメロディーが印象的ですね。
憲武●そうですね。本人は意識してないそうですが、作品に日本的なものがどうしても出てしまうんです。当時、こんなCMやってました。このCMのシリーズ、他に何編かありますが、ディレクターもそれを感じていたのか、和風です。それでこれに応募しまして、当選したですよ。「ポスターレコードプレゼント」ってことで、発送されてくるまではどっちかわからないドキドキの期間、当たるとも限らない訳ですが。
天気●コマーシャルも憶えがなく、キャンペーンやプレゼントも当然知らない。
憲武●…そうですか。で、レコードが発送されてきまして、「やった!」って有頂天な感じでしたね。年が開けて、早速見せびらかしに映研の部室に持ってったんです。
天気●なんか、不幸のフラグ、立ってますけど?
憲武●そしたら後輩が貸してくれというので、貸したんです。その時は後期試験か春休みに入るタイミングで、あまり部室に行かないような状況でしたので返却は、後輩が部室の黒板のところに置いておくということで、春休みに入ってから撮影かなんかで用事があったんで、取りに行ったらないんですよ。
天気●ありゃま。
憲武●後輩は確かに置いたというんです。で、あとから聞いたら、どうもあまり部室に来ない幽霊部員のような部員が失敬して行ったのではないかと。その証拠にそれ以来、その彼を学内でも見かけないようになったんです。それまでは時々見かけてたんですけどね。素足に黒靴が印象的で。今でも悔やまれる痛恨の出来事です。
天気●真犯人が誰かは別にして、いやな出来事、いやな思い出ですね。
憲武●それぎりこの曲が聴かれなくなった訳ではなくて、それから長い時を経て「音楽図鑑(1984)」というアルバムのデジタル・リマスター盤が2枚組で2015年に出まして、その中に収録されていたんです。このアルバムはいわば「音楽図鑑」のボツ曲盤とでも言えましょうか。「音楽図鑑」製作当時、すごい勢いで曲を作っていて、100曲ばかり作ったんじゃなかろうかと言われてます。多量に曲を収録出来るCDと違って、当時はアナログ盤全盛でしたから、曲数を絞る必要があって、ボツ曲を入れたアルバムが出たら買うと決めていたので、すぐ買いました。
天気●執念ですね。
憲武●そりゃもう、なんといっても坂本龍一ですから。高橋幸宏が亡くなって、しばらくしてから、この曲が頭の中で鳴り出しまして予兆だったんでしょうかね。ほとんど毎日鳴ってるんです。このどこか切なく、優しく、哀しげな坂本龍一の音色そのものみたいな曲が。
天気●たまにありますね、同じ曲がくりかえし頭の中で鳴ることって。今回の憲武さんのとはちょっと意味が違うかもしれないけれど。
憲武●日本生命のYOUっていう商品のノベルティでしたんですが、YOUといえばNHK第2で「YOU」という糸井重里司会の若い広場的な番組やってまして、そのオープニングとエンディングテーマを坂本龍一が担当してました。今回はそのエンディングテーマを聴きながら終わりたいと思います。こんな終わり方もたまにはいいんじゃないでしょうか。
(最終回まで、あと715夜)
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