【2023年週俳のオススメ記事 10-12月】
きんぴら
上田信治
10月は、竹岡一郎さん「敬虔の穹」42句でスタート。〈敬虔の穹をうべなふ鴇の影〉
澤田和弥さんの句文集出版の支援を募る企画も始まります。「週刊俳句」にご寄稿いただいた澤田さんのテキストも掲載の予定です。
には、ブラジル留学記連載中の中矢温さん「木蔭の詩」10句。〈屋上やリベルダーデは花の雨〉
小笠原鳥類さんの「深夜音楽」は『鈴木六林男の百句』(高橋修宏著、ふらんす堂2023)から引用の鈴木六林男7句に和しての断章。
「いつまで在る機械の中のかがやく椅子」クチバシのような靴と、ペンギンが食べるだろう肺魚(靴のような、クチバシ)鱈。
内野義悠「こゑのある」10句〈振りて根に重みの土や秋夕焼〉
中矢温さん「ブラジル俳句留学記〔12〕」は、サンパウロのメトロ車内スケッチ。
さてこうも頻繁にメトロに乗るとぼんやりと顔見知りの人が出来てくる。と言っても私は人の顔を覚えるのが得意ではないので、失礼ながらタトゥーで覚えていることの方が多い。
一人目は小泉八雲もびっくりの精密な蜻蛉が左の上腕に描かれた女性。スマホを操作する人が多いなか、彼女はいつも本を読んでいて印象的だ。二人目は左の手首にぐるっと何かしらの詩句が書かれた男性。ぐるっと輪を書くように書かれているので、何と書かれているかは分かっていない。いつか見せてほしいと密かに思っている。三人目は右腕の肘の少し上に蝸牛のタトゥーを入れた女性。半袖のちょうど下に蝸牛がちょこんといる可愛いデザイン。四人目はアニメのタトゥーを身体にたくさんいれている男性。ある日見かけると、何も描かれていなかった左脚のふくらはぎには伏黒恵(『呪術廻戦』のキャラクター)が刻まれていた。随分前に入れたであろう右脚のふくらはぎのナルトのタトゥーと比べると、伏黒は大変色鮮やかで、それはそのまま日本アニメの歴史の一部のようで何だか興味深かった。
拙文で恐縮ですが、上田信治「成分表90 偽マキロン 」
消毒薬で有名な「マキロン」にはそっくり商品があって、白い容器に青い蓋の外見がそっくりなだけでなく、成分がほとんど同じで、しかもずいぶん安い。ドラッグストアでは並べて売られているので、うちでは「マキロン買ってきて。あ、偽のほうね」とか「偽マキロン買ってきたよ」とカジュアルに呼びならわされている。もう本物の「マキロン」を買う人は、よほどちゃんとしたことが好きな人か、偽マキロンを知らない人だけだろう。
「中嶋憲武×西原天気の音楽千夜一夜」は、金沢明子「イエロー・サブマリン音頭」。これは、うれしい。
憲武●(…)なんと言っても特筆は金沢明子の歌唱でしょうね。小節がもはや芸術です。微妙な音の上げ下げが心地いいですし、声を荒々しくしたりしてるところもいいんです。ちゃんと「ウイ オール リブ」って日本語の発音で歌ってますしね。
連載「空へゆく階段」は、田中裕明による「青」291号「編集後記」。島田牙城さんたちの「がきの会」の吟行のことが語られています。
現代俳句協会会長賞受賞句〈包帯は夕日のにほひ八月来 押見げばげば〉などを鑑賞。
小笠原鳥類さん「うれしい「青のペンキは、図鑑の翼竜の色。」」は、佐藤文香さんの詩集『渡す手』を引用しつつ、断章をそえる。
「蝙蝠も来るようだ。蝙蝠もいいねえ。」机というもの。ハト
三島ゆかりさんの 【句集を読む】「永遠の転校生 岡田由季『犬の眉』を読む」 は、2014年刊行の岡田さんの第一句集の鑑賞。
霧の這ふ卓球台の上と下
なにか、見えるものすべてが力が抜けて、あるがままにそこにある感じなのである。いいなあ。
いいですねえ。川田果樹 ペリカン 10句
千野千佳さんによる新シリーズ【俳句のあたらしい作り方】。内容書き方の話ではなく、俳句を、日々、どう作っていくかを工夫するという切り口に、その手があったかーと感動。
第1回「習慣化アプリ「みんチャレ」を俳句に利用してみた」は、ダイエットや勉強などに使われる、習慣化アプリを使って、グループで励まし合って俳句を作ります。
【句集を読む】が2つ。
前号の三島さんの「犬の眉」に続く岡田さん第二句集の鑑賞。
飛ぶものが飛ぶものを食べ秋半ばごく軽い「死」。残酷なようだが、自分たち人間も同じことをして生きながらえている。
三島ゆかりさん「宮本佳世乃句集『三〇一号室』を読む」
この章はふたたび秋と冬の句からなる。「片側の」の章とどのように句を振り分けているのかは、あとがきに書いてない。が、こちらの章はできるがままに即吟したものを極力無加工のまま伝えようとしたものではないかと思う。「片側の」が書かれた曲だとしたら、「かうかうと」は即興演奏なのではないか。言い方を変えると、この第二句集では、一冊の句集の中でふたつの面があるのではないか。水澄んであとはバドミントンでいい
連載「空へゆく階段」、対中いずみさんによる外題には、裕明の「青」掲載句が紹介されていて句集に収録されなかった句が読めるのが、ありがたいです。
瀧茶屋の少しの蕎麦を刈りにけり
花柊声を嗄らして幼な児は
白菊や住持薄着をつねとして
狸汁ふと人形の目鼻だち
猟期はやとしごろの目のうつくしく
木の葉髪おぼつかなくも筆をとり
(太字は句集『花間一壺』に収録)
西原天気さんの「後記」は、自家菜園で収穫の大根を召し上がる話。
で、皮ってどうなんですか? 美味しい食べ方がありそうですが、現状、うちでは捨ててるみたいです。でも、なんか、ありそう。
大根の皮は、きんぴらがイケますよ。
そして、週刊俳句当番、各5句
村田篠「サンタクロース」5句〈襟巻きをして親切な警備員〉
上田信治「この空」 5句〈黄色くてあたたかコインランドリー〉
岡田由季「テノール」 5句〈亀固く蛇やはらかに冬眠す〉
福田若之「果て」5句〈生という枯れ野の空の果てとしか〉
天気さんは、代わりにというわけではないと思いますが【句集を読む】1句鑑賞を6本書いています。
さみしさや物置に蝶がきている 魚住陽子(…)《さみしさ》は、なぜだろう。とくだんそこに人がいるわけでも所作があるわけでもなく、心持ちが示唆されているわけでもない。《さみしさ》の「説明」は、そこにない。だからだろう、この《さみしさ》は、作者を超えて広がるさみしさなのだ。
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