【句集を読む】
死者と冷蔵庫
五十嵐秀彦『暗渠の雪』の一句
西原天気
冷蔵庫死者の家より運び出す 五十嵐秀彦
運び出すのは、もう誰も住まなくなったからだろう。この《死者》の最期はひとり居だったのだろう。
《冷蔵庫》という比較的新しい「季語」に、どのような「本意」や「季感」があるのかはさておき、稼働しているあいだは、暮らしのなかである機能を担っていたはずで、その用がもうなくなった。あるじが《家》をあとにした、それを追うように出てゆくようでもある。
電気の通わない《冷蔵庫》は、ある意味、《死者》といえる。
となると、(おそらく何人かの手で)運び出されるその姿に荘厳さのようなものをまとっても不思議ではない。
句集では、掲句のほか、《秋蝶の複眼まつすぐに堕ちる》《空蟬や月光を待つ背を割り》《土塀より湧きて還らず黒揚羽》《朧夜に落として帰るのどぼとけ》、末尾の3音で景色が夢魔めく《雪原に真つ赤な斧があり眠る》など、虚実のあわいを緊張度の高い韻律で詠んだ句が印象に残った。
五十嵐秀彦句集『暗渠の雪』2023年6月1日/書肆アルス
0 comments:
コメントを投稿