【週俳12月の俳句を読む】
読後感
藤田俊
◆川田果樹 ペリカン
親指を引いて漲る冬のパー 川田果樹(以下同)
寒濤や骨締めつける腕時計
骨格の弾けて戻る嚏かな
身体感覚、皮膚感覚とは異なる骨格感覚とでも呼びたいものが掲句では表現されている。「冬のパー」は親指に合わせて引くことになる小指も見えてくる。嚔の句は阿部青鞋の「くさめして我はふたりに分れけり」を楽しく連想。骨格をキーワードに読んでいると、「プルタブ」、「冬の蜂の足跡」、「リング」も冬に浮かび上がる骨格のように思えてくる。
◆竹岡一郎 敬虔の乳
表現形式やテキストだけではなく入り組んでいると思われるコンテキストが重要な印象を受けたが、短期間での理解は正直難しい。「この門をくぐる者は理解の慢心を捨てよ」と言われているようだ。これを機に定期的に読み返したい。最初と最後に置かれている雪女の句、使われている語彙、12月24日の発表といったことから、聖母の生まれ変わりとして隠れキリシタンのように生きる雪女の一代記を妄想した。所属されている「鷹」のホームページの自選15句にある「南朝の皇女なりしが雪女」が、今回の作品を読むうえでの補助線になるかもしれない。具体的な句では、
骨の手の忽と銭置く夜鷹蕎麦 竹岡一郎
の「忽(骨)」の遊び心と、台に銭が置かれた瞬間だけ全てのものから覆っている皮と肉がなくなったかのように思わせる雰囲気に惹かれた。
◆村田篠 サンタクロース
頭を回転させる梟が夜を、遠火事が山を、襟巻きが警備員を成形しているような、主従関係を逆転させたような修辞の妙。
◆上田信治 この空
嘱目と思われる作品。私たちは時間的にも空間的にも移動を強いられるわけだが、エモさとは異なる形で後ろ髪を引かれるような、少し立ち止まりたくなるような、そんな景をマーキングしたような俳句だと感じた。
◆岡田由季 テノール
教室に綿虫、枯野に転送電話、冬の夜にテノールを配置することで隔たりのある空間を水平移動するような愉悦を感じた。読み下すような文体がそれを引き立てている。敢えて横書きで読みたくなる。セーターの中にいるであろうボーダーや、冬眠という時間移動の中にある亀と蛇の距離を想像した。
◆福田若之 果て
書割のように薄く脆い都市。その裏、果てにしか確かなものはないとばかりに助詞「の」で眼前をめくり迫っていく。5句の並びで読むと「ビンゴ!」の発声と指鳴らしは、ビンゴの台紙に空いた穴から暖炉を皮切りに見えているものの裏を見つめる合図に思えてくる。
■川田果樹 ペリカン 10句 ≫読む 第868号 2023年12月10日
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