2024-04-07

対中いずみ【解題】「後記」第306号

【解題】「後記」第306号


対中いずみ


「青」306号では昭和五十四年度「青賞決定」の特集が組まれている。青賞は服部恵美、佳作に田中裕明の「神發ちて」が選ばれている。波多野爽波の「選後感」を引いておく。
この作者については前号に特集も編まれたことだし、私も一文を記しているので、ここに改めて書き加えることもないようである。

  ラグビーの選手あつまる櫻の木
  竹の根に水打つ朧夜のことぞ
  嬉しくもなき甘茶佛見てゐたり
  大学も葵祭のきのふけふ
  紫苑咲く子は真直に寝ねられず
  浮いて鳴く蛙や山に仁王をる
  降りぎはの柳揺れゐる火桶かな

今回の二十句について云えば、ここに挙げた句などにはこの作者ならではの良質の詩を直ちに見て取ることができるが、全体として何回か通読しているうちに、何か小じんまりと纏まった句の数が目についてきて、全体としての迫力に些か欠ける憾みの方が表に出てきたという感じであった。
もう少し自由奔放にやって貰いたい。ここ当分の間はそれで押し切れるのだから……。
「もう少し自由奔放に」の助言が、その後の『花間一壺』所収の句群に反映されていくのかもしれない。

306号の裕明句6句。

手毬つく村の干し物白くして

小寒の雪なき墓域黒げむり

初釜の客雨粒の顔なりし

吉野川右岸の塔や寒施行

黄楊畑成人式もまぢかなる

探梅やここも人住むぬくさにて

(太字は句集『花間一壺』に収められている。「吉野川」の句は、「島見えて浪の高しや寒施行」に改作されて収められている)

≫田中裕明「後記」第306号

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