2024-04-07

千野千佳【俳句のあたらしい作り方】家族旅行俳句チャレンジ

【俳句のあたらしい作り方】
家族旅行俳句チャレンジ

千野千佳
『蒼海』第21号(2023年9月刊行)より転載

八月初旬、家族で北海道に旅行した。総勢十一名。私の両親、姉一家、兄一家、そして私と二歳の娘。母の古希のお祝いのこの旅行に、私はある野望を抱いて参加した。旅先でいい俳句を得たい。自分だけは吟行のつもりだ。ちなみに、私の家族は誰も俳句を作らないし、私の俳句に誰も興味を持っていない。

結論から言うと、俳句どころではなかった。二歳の娘の世話をしながら(夫は仕事のために不参加だったので世話の負担が大きかった)、大人数の家族旅行を楽しみつつ俳句を作るなどという器用なことはできなかったのだ。

作句のためには一人になる時間が必要なのだが、旅行中一人になれたのが、朝早く起きて温泉に浸かり、子が起きるまでホテルの中を散策したときだった。〈立秋や竹の艶めく脱衣籠〉〈温泉の底の砂つぶ秋立ちぬ〉〈男湯でありし女湯秋涼し〉〈艶のなき卓球台や秋に入る〉〈はつ秋の温泉宿の易者かな〉。あとは帰りの飛行機の中、寝ている娘を膝の上に乗せつつ、窓外の空を眺めて句を作った。〈飛行機の窓の楕円や秋に入る〉〈抜け切れば雲あつけなき秋思かな〉〈秋雲のその奥に硬さうな雲〉。

そして帰ってきてから、旅の詳細を思い出して作句した。

新千歳空港周辺は大きくて白いもこもことした花がたくさん咲いていた。調べると男郎花だった。〈男郎花栞どほりにすすむ旅〉。空港からすぐに白老の「ウポポイ」(アイヌ文化が体験できる博物館)に行った。秋の植物がたくさん咲いていて、大きな湖が美しかった。(再訪してゆっくり吟行したい場所ナンバーワンだ)。〈アイヌ語の低き調べや萩の花〉〈秋雲や擦りあはせたる祈りの手〉〈新涼やアイヌの像の太き眉〉。登別温泉に泊まり、翌日は登別クマ牧場に行った。クマ牧場は山の上にあり、霧がかかっていた。〈たのしさや霧の展望台に来て〉〈人に手を振りたる熊や霧の中〉〈霧うごきうごき次第に雨となる〉。また、ホテルにはプールがあり、二歳の娘も楽しんでいた。〈子の腹にぴたりと嵌る浮輪かな〉〈水泳帽被りますます吾に似る〉。なにより旅の主役である母が旅行を楽しんでいたようなので良かった。〈立秋や母と鏡を分けあへる〉。

余談だが、この北海道旅行の二日後、姉がコロナ陽性になり、その二日後、私がコロナ陽性になった。いろいろな意味で忘れられない旅となった。

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