【俳句のあたらしい作り方】
うまい棒吟行
千野千佳
『蒼海』第24号(2024年7月刊行)より転載
うまい棒の牛タン塩味の封を切ったところを娘に横取りされた。三歳の舌に牛タンの味がわかるのかと思ったが、娘はにこにこして一本すべてを食べてしまった。仕方なく残った粉を舐めるとたしかに牛タンの味がした。そして仙台に暮らした大学時代を走馬灯のように思い出した。
うまい棒の残骸の粉でこれほどの体験ができるのか。そこでうまい棒を食べて思い出される感覚をもとに俳句を作ってみることにした。
百円ショップでうまい棒を大量に購入してきた。やおきんのホームページによれば現在十五種類のうまい棒が発売されているが、そのうち十三種類を手に入れることができた。さっそく食べて俳句を作っていこう。
〔とんかつソース味〕昔ながらの駄菓子の味。キャベツ太郎の味。酸っぱさが強い。とんかつソースよりウスターソースに近い。〈麦秋やむかしソースの酸つぱくて〉
〔チーズ味〕カールの味。奥歯に残る。〈歯の溝にのこる駄菓子や夏休み〉
〔やさいサラダ味〕野菜というかドレッシングの味。甘味と塩味と酸味とにんにくがガツンと来る。〈母の日やドレッシングは酢と油〉
〔めんたいこ味〕丁寧に味わうと魚卵感がある。〈さみだれや箱にひやりと明太子〉
〔たこ焼味〕うまい。油で揚げているのかカリッとしている。とんかつソース味よりも甘い。〈たこ焼のたこ抜いてやる若葉かな〉
〔牛タン塩味〕うまい棒吟行のきっかけになった味。一番おいしい。仙台の大学時代にしばし思いを馳せる。〈大学は山の上なり都草〉
〔シュガーラスク味〕甘いうまい棒。バターの香りがいい。〈マーガリン溶けて八月十五日〉
〔やきとり味〕たこ焼味に肉の味を足した感じ。うまい。〈焼鳥をうしうしと食ふ暑さかな〉
〔のり塩味〕ポテトチップスののり塩味のことだった。ポテト系スナックに擬態するコーン系スナック、なんだかいじらしい。〈新じやがのウインクが新じやがの窪〉
その他に、サラミ味、テリヤキバーガー味、コーンポタージュ味、なっとう味を食べた。
食べて想起される感覚から句を作るというよりは、兼題を与えられて句を作る感覚に近かった。うまい棒は日本が世界に誇る菓子だと改めて思った。そして十三本のうまい棒を食べた後、胃弱のわたしは気持ちが悪くなってしまった。
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