【週俳9月10月の俳句を読む】
わずかにざわつく
箱森裕美
ワッフルに足すシロップと秋日差 月野ぽぽな
秋の日差しにはどこか甘やかな香りが含まれている。そのあたたかな光はメープルシロップも想起させる。琥珀色のシロップがワッフルに垂れ落ちると、香りがふわりと立ち上がる。ささやかな贅沢を楽しむひととき。
人声の途絶えて秋の薔薇匂う 同
夏のバラが鮮やかな輝きを放つのに対し、秋のバラは色も香りも深みを増すという。人の気配が消え、静けさが訪れた瞬間に、秋バラの香りがいっそう濃厚に感じられた。不意に広がるその芳香は秋の静けさとあいまって、より印象深いものになる。
鶏頭花ざわめく鋏入れるとき 同
鶏頭の形はどこか生き物を思わせる。その赤々とした花に鋏を入れるとわずかにざわつく気配を感じた。仲間の一部が切り取られる様子に花々が動揺しているかのようだ。意思を持っているかに見えるその動きに、どこかおそろしさも感じる。
白菊の白に屈めば街消える 同
連作全体を通して都会の気配が立ち上ってくるようだが、この句は最もその象徴的な存在に思える。「屈めば消える」という表現は、屈む前には確かにそこに存在していたことを示唆している。ひそやかな菊の白と、無機質なビル群との対比が鮮やか。静けさと騒がしさ、自然と人工という相反する要素が絶妙に絡み合っている。
てのひらが脈打っている銀河かな 同
手のひらの筋をじっと眺めていると、それが銀河のように見えてくる。手のひらという人体の小さな一部から、果てしない広がりを持つ銀河へと一気に飛躍する発想の大胆さが面白い。
■村上瑠璃甫 ままこのしりぬぐひ 10句 ≫読む 第907号 2024年9月8日
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