【週俳1月の俳句を読む】
楽しく生きるコツ
喪字男
日替わりで家族の顔が点滅す 暮田真名
毎日を細かく見ていくと家族の誰かにはちょっとした何かが起こっている。点滅の間隔や色合いはおそらく様々だ。引きこもりのお兄ちゃんの顔は自室で何色に点滅しているのだろう。
隠された上履きだから言えること 同
上履きを隠されたことはないが、隠された上履きを探したことはある。あの時はクラスみんなで探した(させられた)。優等生たちは彼女に優しい言葉をかけていたけれど、この盛り上がりが終われば彼らはそんなことはしないやつだということを僕は知っていたし、今も知っている。ちなみにその時は自作自演だった。
重箱に意中の人がいないんだ 同
意中の人は探すものではない。いくらご馳走の詰まった重箱だろうと規格の中で見つけようと言うのが間違いだ。だから視野を広くするためにまず立ち上がることが大事である。
モテ期かどうか相撲で決める 同
モテ期というのがあるらしい。僕にはなかった。なかったら頑張るしかない。とりあえず会う人みんなに「すもんとろ!」というのも手だと思う。「そんなことキュウリ言われても」と返した人を大事にするときっと良いことがある。
白衣では伝わることも伝わらない 同
「お前は白衣の堕天使じゃ!」と怒鳴っているところを見たことがあって言われた看護師は泣いていた。えらいこっちゃと思いながら見ていた。翌日、泣いていた彼女が点滴に来た。「堕天使の点滴だ」と思ってドキドキした。もしかしたら僕はちょっと悪い。
悪意があればチュウしたものを 同
キスと言うのがかっこよくてチュウはダサいと思っていた。おっさんになって、若い子が逆にキスよりチュウを使っているのを知った。若い人に混じってチュウと言いたいが恥ずかしさが勝る。
悪意があるキスというとポップになるけど。悪意があるチュウというのはちょっとかわいい。今はどっちが流行ってるの?
濡れた手で就業規則さわっちゃった 同
濡れた手で触ってもいい。なぜなら就業規則にそのことが書いてないから。
物陰で前撮りしたよなつかしい 同
多くの人は前撮りを成人式の前に撮っておく写真のことだと思っているだろう。でもそれは違うと思う。物陰だから。物陰で撮ったということは前撮りの「前」は前貼りの「前」のことだと思う。誰にでもあるよね。なつかしい。
子猫ちゃんたち地鳴りはやめて 同
子猫というものは半分しか生きていないようなか細さがあってたまらない。ずっと見ていられるし、抱きしめたり握りつぶしたりしてみたくなる(よね?)。もちろんそんなことはいけないことだから心の中では天変地異が起こっている。
ネーミングセンス光って、帰らなきゃ 同
他人からネーミングセンスがないと言われる。それは格好をつけるからで、面白くなくてもいいし、新しくなくてもいい。単に自分で勝手にハードルを上げて失敗しているだけのことだ。
素直に「っス。おつかれっす」と言ってさっと帰るのが楽しく生きるコツである。
■西生ゆかり 室内楽 10句 ≫読む 第926号 2025年1月19日
■知念ひなた 風の街を住む 20句 ≫読む 第926号 2025年1月19日
■暮田真名 芋づる式 10句 ≫読む 第927号 2025年1月26日
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