【中嶋憲武×西原天気の音楽千夜一夜】
YAJU&U「ヤジュセンパイイキスギンイクイクアッアッアッアーヤリマスネ」
天気●現実世界とインターネットが、世間として別々に存在するという状態は、いろんな局面で出ていて、このところ、その傾向はますます増大、って堅苦しい言い方していますが、つまり、インターネットという巨大な洞窟では、大きな出来事が、こっちが知らないあいだに進行してる。最近知ったネット上の大ヒット曲も、そういうことなのかな、と。
天気●メロディもアレンジもいわゆるキャッチーで、聴いていて愉しいし、耳に残る。再生数を見ると、11か月で3300万回以上。それ以上にびっくりするのがコメント数が100万以上。
憲武●わりと短期間なんですね。再生数が。偉業といっても差し支えないんじゃないでしょうか。
天気●これ、ちょっと調べてみても、事情や経緯がよくわからない。野獣先輩というゲイ向けのポルノビデオの登場人物がなんらかのモチーフになってることはわかった。それとAIが作曲、ということもわかった。アレンジもきっとそうなんだろうな、と。歌唱はどうなんでしょう? わざわざ人間が歌入れするとは思えないので、ある種のアプリケーションなんでしょう、きっと。
憲武●そうなんでしょうね。田所浩二(野獣先輩役の俳優)本人の歌唱とされてるものもアップされてますけど、口パクのようにも見えますね。
天気●AIがここまで出来るんだ! と吃驚するのですが、考えてみると、作曲やアレンジは、AIの得意分野だと思う。音符は「あいだ」の曖昧な部分がなくて、いわばデジタルの組み合わせなので。それに「学習」の積み重ねが出来栄えに大きく反映する分野でもある。そのうち、もっとメジャーな音楽商品にもAIが活用されそう。
憲武●AIの日々の進歩ってすごく速くて驚かされますね。
天気●週刊俳句の上田信治さんの記事「AI使ってみてる」も、こんなところまで来てるのか、と驚きました。
憲武●この記事、面白かったですね。これに感化されて ChatGPT で詩をコラボしてみたこともあります。だって ChatGPT が「一緒に作りましょうよ!」とか言ってくるから。
天気●距離をつめてくるんですね。
憲武●はい。嫌になりますよ。それはそうと、音楽に限らずほかの分野でもそうなんですけど、「署名」の表記の問題は、どうなるんでしょうね。
天気●はい。そこのところはたいへん興味深い。それとですね、AIが作曲しちゃった、というだけでなく、私が興味を持ったのは、歌詞が、ゲイ・ビデオのセリフから採られている点。音楽エスタブリッシュメントから遠いところに、作者がいる。
憲武●この曲、野獣ダンスというのが TikTok で大バズりしてまして、そちらで知って野獣先輩に結びついたんですが、意外なところから意外な楽曲が! という感じですね。
天気●付け加えるに、タイトルに半角カタカナが並んでいる点。半角カタカナって、パソコンから無くなればいいのに、と思っていましたが、こうまで堂々とタイトルにされてしまうと、私からも遠い地点にいて、つまり言い換えるとワケワカランくて、とてもいいです。
憲武●半角カタカナって、メールなどである種の感情やニュアンス、雰囲気を表す際に、便利なツールと思ってたんですが、堂々とタイトルに使われる時代なんですね。最早。
天気●わけのわからないものに、このさきどのくらい出会えるのか。余生は、懐かしむことで時間を使いたくない。ある部分は混乱していたい。リラックスとか、平穏とか、レイドバックは、自分でできるので、外部から来るものには、理解不能の吃驚がたくさんあってほしいと、あらためて思っているのですよ。
(最終回まで、あと612夜)
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