【中嶋憲武×西原天気の音楽千夜一夜】
はちみつぱい「土手の向こうに」
天気●なにかきっかけや話題があるわけではないですが、鈴木慶一/ムーンライダースのキャリアのスタート、はちみつぱいの「土手の向こうに」(1973)を。
天気●ムーンライダースも初期の何枚かのアルバムは愛聴したんですが、結局、この73年のアルバムが、いま聴いてもいちばん好きだったりします。
憲武●久々に聴きました。やはりいいですね。
天気●この曲は、重心の低いゆったりしたノリとかコーラスとか、ザ・バンドを思わせる。実際、「The Weight」の若干輪唱的になったコーラスとか、生ギターのこの曲を下敷きにした部分も大きんじゃないかと。
憲武●結構この頃、ザ・バンドをお手本にしていたんではないでしょうか。後年、高橋幸宏と「Stage Fright」をカヴァーしてますし。
天気●「冬さえ来れば♪」と歌う。なんとかしよう、というんじゃなくて、なんとかなるだろう、と。いろいろあったものを土手の向こうに打ち捨てる。なかなかにネガティヴです。ネガティヴ万歳。
憲武●羽田あたりには川が多いですからね。「土手」はなかなか歌詞に持ってこられるものじゃないです。
天気●で、この曲が入ってるアルバム『センチメンタル通り』は、タイトルどおり感傷的な成分が多くて、冒頭の「塀の上で」からして、「空は未だ群青色の朝、外はそぼ降る鈍色の雨、窓にこびりついた残り顔流し、牛乳瓶に注ぎ込む雨よ♪」と始まる失恋の歌。この「土手の向こうに」ももちろんそうですが、アルバム全体が「青春の鬱屈」みたいなものに満ちている。
憲武●この「塀の上で」はムーンライダースの10周年記念ライブの時、恵比寿のファクトリーでやってくれました。このアルバムの中では「月夜のドライブ」が好きですが、ドライブなんですけど例外なく鬱屈してます。このアルバムで沁みる曲は、なべて長いです。5分超えてる。
天気●このアルバムをよく聴いていたのは、下宿で一人暮らしが始まった時期だと思います。現実の鬱屈と、このアルバムの雰囲気とは合致して、思い出深いんでしょうね。ああ、あっしにも若い頃があったんですよ。
(最終回まで、あと588夜)
0 comments:
コメントを投稿