2026-02-15

【俳句なんやかんや】水馬わけもわからず快諾す〔永末恵子〕八上桐子×西原天気

【俳句なんやかんや】
水馬わけもわからず快諾す〔永末恵子

八上桐子×西原天気


天気●俳句を一句、取り上げて、なんだかんだとおしゃべりしましょう、という、音楽千夜一夜の俳句版みたいなことを始めました。誰と誰が、とは決めていません。今回は、川柳作家の八上桐子さんをお招きしました。

桐子●「俳句千夜一夜」じゃなくて「なんやかんや」なんですね、お誘いいただき、ありがとうございます。よくわからないけど、なんかおもしろそうです。俳句についてあれこれお話するのですよね。そういえば、今のこの感じにぴったりな俳句がありました。

 水馬わけもわからず快諾す 永末恵子

あめんぼう…、少々ノリが軽すぎたかもですが、どうぞよろしくお願いいたします。

天気●《わけもわからず快諾す》の部分が、このたびの桐子さんの気分というわけですね。恐縮です。そして、ありがとうございます。ところで、俳人は、「今のこの感じにぴったりな」と聞くと、反射的に「季節」のことを思うので、え? 水馬は夏の季語なんですけど? と一瞬、アタマがこんがらがりました。のっけから、柳人と俳人の違いが現れましたね。

桐子●なるほど、まず季語で季節なんですね。水馬から、あの水面をすいすい動く姿は浮かんでも、夏は出てこないです。俳句と川柳の具象の使い方が違うはずだ。

天気●アメンボは、小さいときによく眺めていました。愛らしい。その頃、この語彙はなかったけれど、そういう気分で眺めていたのだと思います。飽きもせず。

桐子●アメンボが水の上を歩けるなら、人間もどうにかしたら歩けるのではと思って見ていました。足の裏がどうなっているのか確かめたかったのですが、すばしっこくて捕まえられませんでした。

天気●あっ、捕まえるという発想はなかったです。これも川柳と俳句の違い? なわけないか。

桐子●永末恵子さんの句集『ゆらのとを』(2003年)は、石田柊馬さんの勉強会で紹介されました。

 猫のびるのびる那智から舟が出る

 鹿肉に塩ふる美貌かもしれぬ

 にわとりを引っぱる冬の神社かな

 寒いから漬物石を誉めている

 ヴァイオリンとつぜん向きを変える鯛

ものの見方や喩え方にそこはかとないユーモアあり、品のよい毒気もあり、好きな句が多すぎてすぐに買いました。たしか amazon で 8,000円くらいだったと思います。

天気●いい買い物でしたね。調べると、今はもっと高価。ウェブサイト「日本の古本屋」も見たのですが、どの句集もほとんど出回っていないようです。

桐子●俳人の方には失礼かもしれませんが、ちょっと川柳ぽさを感じるのですがいかがですか?

天気●それ、難しいところです。引用された5句を見ると、たしかに川柳っぽさ(あくまで私の浅はかなジャンル理解という前提はありますが)はあるかも。ちなみに、どの句もめちゃくちゃおもしろい。

桐子●もっと見直されていい作家だと思います。

天気●はい。2016年・62歳と、早くに亡くなられて、句集は5冊あるようですが、先ほども話したように、入手が難しい。週刊俳句・第322号(2013年6月23日)に10句寄稿いただいていて、今となっては貴重です。

桐子●これもいいですね!

天気●でしょう? さて、さきほどのご質問に立ち返りましょうか。《水馬わけもわからず快諾す》は川柳ぽいか? という問い。私は、きわめて俳句っぽく感じます。12音のフレーズに季語をプラスした作りのせいもあって。

桐子●12音のフレーズ+季語は、TVでおなじみの某先生の言われる俳句の基本型ですね。川柳も、12音+具象の型があって、私も時実新子から基本型の一つとして学びました。

天気●川柳にもあるんですね。それは新鮮です。俳句の場合は、しかし、その〈+具象〉の部分が季語になるのが基本、というか、圧倒的に頻繁。その場合の季語は、場面設定や気分/空気の醸成という役割を担うことも多く、がっつりぶつかり合わない。いわゆる〈二物衝撃〉としての取り合わせは、むしろ川柳のほうで活用されているのかもしれません。

桐子●で、水馬の句ですが、なんか勢いでOKしちゃったみたいな、言葉では説明のつかない感覚に近いものとして、水馬がよく出てきたなと。いかにもでもなく、アメンボを思えば思うほど、それそれ、それだわ! と納得していく。取り合わせの距離感も絶妙です。川柳なら「あめんぼう」とひらがなにひらくでしょうね。私なら、かな?

天気●取り合わせの距離感。なるほどです。そのへんは(俳句において)決まりはない(と思う)ので、あるいは、別の角度から言えば、言語化/マニュアル化されにくい「秘儀」のような部分なので、読者一人ひとりにどうフィットするのかということですね。桐子さんから「絶妙」と言われると、そう思えてきました。アメンボウ。いいですね。

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