2026-06-07

『俳句雑誌noi』後藤麻衣子さんへの「10の質問」〔俳誌の中の人に訊く〕

〔俳誌の中の人に訊く〕
後藤麻衣子さんへの「10の質問」


Q1 関わっていらっしゃる俳誌の名前と概要、そしてご自分の役割を教えてください。

『俳句雑誌noi』は「未知でありながら懐かしい 新鮮な普遍性を求めて」をテーマに、神野紗希・野口る理が2025年5月に創刊した月刊の俳句雑誌です。

全体のページ数は、平均80ページほど。誌友の投句作品が30ページ前後で、それ以外は特集や連載、句評などの読みものが占めています。

創刊一年間の特集を振り返ると、作家特集「宇多喜代子」、対談・座談「口語俳句の育て方」「ウクライナ俳句交換日記」「俳句雑誌のつくりかた」、テーマを設けた「連作と一回性」「主題と主体」「ただごとと祈り」「口語俳句の沃野」などさまざま。「今読みたい俳人」「新刊芯読」といった企画も不定期で組んでいます。

私はチーフエディターとして、主に編集・デザイン、制作進行管理を担当しています。
この「チーフエディター」は編集長のような意味ですが、フラットな野のようなnoiにおいて、編集長の「長」という一字がどうしてもしっくりこなくて(私自身が)、結果こう呼んでもらうことにしました。

紗希さん・る理さんは「代表」であり「選句担当」、そして投句者&購読者を会員ではなく「誌友」と呼ぶなど、自分たちの在り方に近い言葉を探りつつ、活動を重ねています。

Q2 『俳句雑誌noi』の特徴・アピールポイントを教えてください。

noiは、結社誌でも同人誌でもない「俳句雑誌」です。

誌面や句会などを通して俳句観を共有しつつ、作家それぞれの俳句を追求することを目指しています。

毎号組んでいる特集に加えて、時評や作品鑑賞、句集評、テーマを設けた連載企画、リレー連載など、読みものも充実しています。

誌友による投句作品は、雑詠7句の「野惟集」(選句担当:神野紗希)と、年間テーマ作品の「野風抄」(選句担当:野口る理)の二種。年間テーマは、2026年は「連作」3句、2025年は「口語」でした。その号で一番推したい七句を、表紙に掲載しています。

誌友への頒布は、雑誌の郵送はもちろん、PDFデータでも配布。バックナンバーは誰でも気軽に一冊から、オンラインストアで購入できるのも特徴のひとつです。

また、誌面に掲載された俳句作品の「一句鑑賞」を、誌友から投稿フォームで集めています。寄せられた鑑賞文は本誌で紹介するほか、SNS(X)でも毎日投稿しています。
noiの中で誌友同士の句を鑑賞し合ういい循環が生まれつつ、noiの外にも放たれ読まれていくことも、紗希さん・る理さんがnoiでやりたかったことのひとつ。これからも続いていくといいなと思っています。

Q3 『俳句雑誌noi』を発行/維持していくうえで、苦労することを教えてください。

noiは月刊誌ですが、専任の編集者はいません。

専任者のいない編集部で毎号特集を組みつつ、確実に発行するために、常時3号分ほど並行して進行しています。休む暇のない編集業務をこなし、そもそも「毎月発行する」ことが、一番の苦労ポイントかもしれません。

それでも、「毎月必ず発行すること」は、月刊誌制作における最優先事項。当たり前のことですがこれが本当に難しくて、でも一番大切なことだと思っています。

ただ、紗希さん・る理さんの選句原稿をはじめ、連載や特集の執筆陣のみなさんが締切までに素晴らしい原稿を揃えてくれること、有志の校正メンバーがプロ並みの校正で雑誌の正確さを下支えしてくれること、編集部の北野小町さんが魔法のような選句システムや校正システムを組んで効率化を図ってくれること、そして誌友の皆さんがフォーム投句などデジタル化に協力してくださることなど、すべての書き手のおかげで効率化・仕組み化ができ、創刊の一年間は毎月の発行が叶いました。

これを継続しながら、さらに新しいことにチャレンジしていくのが二年目の目標です。

Q4 『俳句雑誌noi』をつくっていくうえで、だいじにしていること・たいせつに思っていることを教えてください。

紗希さん・る理さんとしては、noiを「雑誌をつくること、読むこと、考えることを実践的にやれる場にしたい」という思いが根底にあります。

特集の企画を進めるのは、代表の二人。発行月の3〜4ヶ月前から企画に取り掛かり、寄稿者の選定にもたっぷり時間をかけています。

「書き手を選ぶ」こと、さらにその先の夢でもある「書き手を育てる」ことにも深く心を寄せている二人。単に誌面の完成度を上げたい、という表面的な話ではなく、「作家として書きたいこと、大切にしていることを書ける“場”でありたい」と願う二人の誠実な姿勢が、ひしひしと伝わってきます。

どうしても効率優先で機械的になりがちな月刊誌編集において、この誠実さこそがnoiの魅力を生み出しているのだと思います。実際に、これまで寄せられた数々の素晴らしい文章に、そしてその文章が束ねられた特集に、私自身いつも深く感動しています。

そんな、二人が大切にしていることをより多くの人に届けられるよう、私は編集・デザイン面でのさらなる充実を目指しています。

手に取りたくなるような表紙デザインや読みやすく魅力的な誌面、そして「私の作品もここに載りたい!」と思ってもらえるような、一冊の存在感や佇まい。二人の思いや考えを受け取り咀嚼しながら、雑誌としての完成度やnoiらしさを追求し、読者との繋がりをデザインしていくことで、掲載された作品や文章が、より多くの人の目に触れるきっかけをつくりたい。そんなきっかけを、編集やデザインの力で支えていきたいと日々思っています。

Q5 『俳句雑誌noi』を動物に譬えてください。その理由を教えてください。

「鯨」です。

実際に見る機会は少ないのに、みんな絵に描けるくらい知っている動物。海に棲んでいるのに実は哺乳類という意外性。周囲を怖がらせることのない温厚さがありながらも絶対的な存在感のある、その存在ごと、noiの大らかな包容力にたとえられる気がします。

鯨が発する音の中でも、メロディのような規則性とリズムを持って繰り返す鳴き声のことを「ホエールソング」といいます。何百キロ、何千キロも離れた仲間にも届くらしく、人間が作る音楽のようにいくつかのフレーズ(旋律)があり、それを組み合わせて構成していることから、科学者たちによって歌と名付けられたそう。

どれだけ離れていても、暗い深海にいても、同じ歌で繋がっている鯨。どこまでも広く深くフラットで、誰一人取り残さないつながりの場を目指しているnoiに、重ねてみました。

これが今回、一番難しい質問でした。最初は野を駆けるウサギとかにしようかと思いましたが、取り合わせが近すぎる(!)気がして。でも今は考えれば考えるほど鯨だなあと、書きながら思っています。

Q6 ご自分のことに質問が移ります。理想的な休日の過ごし方を教えてください。

3・6・9才の三兄弟と、夫の五人暮らしです。

私にとって理想の休日は「母としての理想の休日」と、「個人として理想の休日」の2パターンがあり、人生のトータルで見たときにそれぞれがいい感じに叶っている状態が理想です。すべてはバランス。

母としての理想の休日は、家族とおいしいものを食べたり、子どもたちがしたいこと、行きたいところへ出かけて、夜寝る前にみんなで「楽しかったね」振り返りたくなるような一日。

個人としての理想の休日は、句会や吟行、習いごとや美術館巡りなど、自分の感性をくすぐり満たす何かを楽しめる一日。一日中好きなことをして、好きなことを話して、好きなものを食べて飲んで、心を満たしたい。

夫にも、三人の子どもたちにもそれぞれ理想の休日があるはずですが、全員の願いを一日に一度に叶えることは至難の業です。譲りすぎず、我慢もしすぎず、互いに思いやりつつ「いい日だったね」と眠りにつける日を一日でも増やせたら、それが一番理想です。

Q7 現在お住まいの町は、どんなところですか?

岐阜県岐阜市、長良川沿いの地域に住んでいます。

5月11日から10月15日まで、中秋の名月を除く毎夜、岐阜の長良川では「長良川鵜飼」が開催されます。観覧船から見るのが一番迫力がありますが、川辺の階段に腰掛けて眺めることもできる(無料)ので、鵜飼開始を告げる花火が上がると、近隣住民や宿泊客がぞろぞろと川辺に集まってきます。

友達に声をかけて缶ビール持参で鵜飼を見ながら「川呑み」を楽しんだり、思い立って一人で川辺へ出かけて鵜飼を観ながらぼーっとすることも多いです。
朝は、その長良川沿いの「高橋尚子ロード」をランニングするのが、とても気持ちいいです!

チーフエディターである私が地方在住という点からもわかるように、noiの編集部員は全国各地にちらばっていて、物理的に集まって何かをすることはまずありません。月1回、自由参加のzoom編集会議がある以外はLINEで連絡を取り合って編集を進めている、完全遠隔編集部です。

Q8 好きな自然現象について、教えてください。

厳密には自然現象ではなく物理現象(それも人工物)なのですが、液体のりの「アラビックヤマト」をひっくり返したときに、大きな気泡がゆっくりと上がっていくあの動きがたまらなく好きです。

サラサラの水なら一瞬で消えてしまう、浮力という自然の力が、あの粘り気のある液体の中だからこそ、時間がスローモーションになったかのように感じさせてくれます。
焦りのない、じわじわとした優雅な動きを見ていると、心の底からとても癒されます。液体のりはほぼ使いませんが、これを見るために所持しています。

Q9 10年後、『俳句雑誌noi』はどうなっていると思いますか。「こうなっていたい」という野望・願望でもかまいせん。

noiとして、俳句雑誌としてどうなっていたいか、その野望については代表の二人の中にあると思うので、私としては「10年後もずっと続いていること」が、大きな夢であり目標です。

そして、その頃には今よりもっと仲間が増えていることを願っています。

10年後のnoiには、120の特集がアーカイブされ、数えきれないほどの作品が世に出ていることになります。

たくさんの人に読まれ、また読み返され、のちに「当時のこの作家はこんな作品をつくっていた」「あのとき、あの人はこう考えていた」と参照されていく本になっていくはずです。

そんな宝の山を眺めながら、みんなで「noi vol.120」を片手に、10周年記念パーティーで乾杯したいです。

Q10 最後に、ご自分の最近作を5句教えてください。ベスト・オヴでも、単に直近の5句でも、どちらでもかまいません。

胎の子とそれぞれの水泳ぎつつ
暑いので青えんぴつでいいですか
操演の小指で秋を待つしぐさ
焼きそばの列に食い込む踊の輪
書いてみてなんか違う字豊の秋
(連作「へその緒」より、夏〜秋の五句)

『noi』オンラインストア https://noi8iku.com/



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