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2014-02-09

【週俳1月の俳句を読む】 穏やかであること  五十嵐義知

【週俳1月の俳句を読む】
穏やかであること 新年詠より

五十嵐義知


初旅に眠りをいくつとほりすぐ   生駒大祐

目が覚めてはまた目を閉じる、「いくつとほりすぐ」がその様子をよく表している。
実際は短い旅程なのかもしれないが、「初旅」によって、いくつもの街や山、川を越えて行く、長いゆったりとした旅の始まりを予感させる。


焼く餅の数聞きまはる祖母の家   江渡華子

餅の数を聞いて回る。いいところに気がついたものと感心。
「その人の食べるであろう餅の数は分かっていても念のため聞いてみる」、あるいは「どのくらい食べるのか全く分からない」など、
祖母の家には多くの、そして作者との距離も様々な人々が参集しているのである。


いくたびか地名に見惚れ年賀状   小池康生

地名は興味深い。その土地の様子から名付けられたもの、複数の言葉が合わさったものや
市町村合併の際に、旧町名や旧地域名に戻したものなど。
年賀状の内容よりもその届いた先の地名に見入ったのである。


枝移る鳥を見てゐる三日かな   関根誠子

枝から枝に飛び移る鳥を見ている。
それだけのことなのであるが、何とも穏やかな景色である。
「三日かな」が何とも良い。


初夢を明るいほうへ歩みゆく   月野ぽぽな

夢の中で、一方に明るさを見出した。
前後左右、上下も分からない夢の中であったが、その明るさの方に一歩踏み出したのである。
どこまで歩いたかも分からないのだが、その明るさはしらみかけた空につながっているのであった。


第350号2014年1月5日
新年詠 2014  ≫読む

第352号2014年1月19日
佐怒賀正美 去年今年 10句 ≫読む
川名将義 一枚の氷 10句 ≫読む
小野あらた 戸袋 10句 ≫読む

第353号2014年1月26日
玉田憲子 赤の突出 10句 ≫読む

2013-12-22

今夜は湯豆腐かおでんがよろしいです 五十嵐義知句集『七十二候』の二句 西原天気

今夜は湯豆腐かおでんがよろしいです
五十嵐義知句集『七十二候』の二句

西原天気


「アットホームな雰囲気のレストラン」とかいった文言を聞くたびに、「何を言ってるんだ?」と思います。

家庭的がいいなら、家で食事すればいいんじゃあないの、と。

こんなことを言う私は、家で食べるごはんがだんぜん好きなのですよ。

だから、

  湯豆腐の欠けたる角をすくひけり  五十嵐義知

という句を読んでも、どこかの湯豆腐屋だとは思わない。家で食べる湯豆腐です。

うまく掬えずに、角が欠けて、その小さく欠けた角が湯の中で煮えている。その欠片も掬って食べようという句。

あのね、食事って、気持ちのいい人と食べれば、なんでも美味しいものですよね。「気持ちのいい人」というのは、例えば、気心の知れた人、いっしょにいて楽しい人、それからまた、湯豆腐の欠片をきちんと掬うような人です。

掲句は五十嵐義知第一句集『七十二候』より。集中、こんな句もあります。

  かたよりのなく選びたるおでんかな  同

私などはコンニャクが好きなので、どうしてもコンニャクを連続で選んでしまいます。それをやると、「鍋内の具バランス」が崩れてしまう。

バランスよく選ぶ人はエラい。こういう人もやはり「気持ちのいい人」といえるでしょう。

この句もおでん屋や飲み屋とは思わない。家で食べるおでんです。上記の理由(私の家ごはん好き)だけでなく、 外食だと、具のバランスが崩れるという読みが成り立たなくなる。「かたよりのなく」は、栄養バランスかい? それとも自身のスタイルの問題かい? ということになってしまうので、外食説は却下です。

 ●

行儀の良い人、人のことを考えられる人。『七十二候』の作中行為者(おそらく作者・五十嵐義知とニアリーイコール)の人物像として、そんな美徳が浮かび上がってきます。

良い人が、良いまなざしで、そこにいる。そんな句集です。

こう言うと、べた褒めすぎるので、すこし言えば、ここに、刺激や飛躍、チャレンジングな姿勢はあまりありません。手堅いけれど、読む人によっては退屈と感じるでしょう(そういう句集はとても多い)。しかしながら、それは作者それぞれの持ち味です。

話を戻しましょう。食事というのは、何を食べるかじゃなくて、誰とどのように食べるかが問題。気持ちのいい人と食べれば、なんでも美味しい、という話でした(ほんとに戻ったのか?)。

集中より、ほか、気ままに何句か。

  物陰にかくれし春の氷かな

  摘みとりし色の深さや草の餅

  明急ぐひかりの中の月あかり

  廻りてもとまりてもよき独楽の色



web shop 邑書林 五十嵐義知句集『七十二候』


2013-08-11

【週俳7月の俳句を読む】距離感 五十嵐義知

【週俳7月の俳句を読む】
距離感

五十嵐義知


冷酒や亜流に生きて心地好し  小野富美子

物事の第一人者としてではなく、そこに携わる、またはその周辺でそれなりに過ごしてきた。
脚光を浴びることのない生き方だったかもしれないが、冷酒がすべてを洗い流してくれたのであろうか、それもまた良しとした。
「亜流に生きて心地好し」と言い切る潔さが、なんとも心地好く、冷酒が心地好さを増幅させている。

ポケットに入らぬポケット版薄暑  小野富美子

ポケットに入らないポケット版。
薄暑はまさに、季節というポケットに入りきらなくなった暑さが噴出してしまったかのようである。

色深くなるまで雨の額の花  小野富美子

紫陽花の色は雨によって深くなる。
雨の色素を蓄積するかのような紫陽花の深い青色が思い描かれる。

麦酒飲むまた王冠を叩く癖  小野富美子

王冠を叩くときの小気味のいい音。
ビール瓶を冷蔵庫から取り出す音、王冠を叩く音、栓を叩く音、グラスに注ぐ音、瓶とグラスが触れる音。
これらの音が連なり、「麦酒飲む」へとつながるのである。
作者の癖かもしれないが、カウンターの中にいる人物の癖かもしれない。
いずれにしても一連の光景が如実に想起される。



第324号 2013年7月7日
マイマイ ハッピーアイスクリーム 10句 ≫読む

第325号 2013年7月14日
小野富美子 亜流 10句 ≫読む
岸本尚毅 ちよび髭 10句 ≫読む

第326号 2013年7月21日
藤 幹子 やまをり線 10句 ≫読む
ぺぺ女 遠 泳 11句 ≫読む

第327号2013年7月28日
鳥居真里子 玉虫色 10句 ≫読む
ことり わが舟 10句 ≫読む